
カスハラ対策を怠ると訴訟リスクに?
こんにちは。
さくら人材コンサルティング株式会社の伊藤明美です。
近年、「カスタマー・ハラスメント(以下、カスハラ)」
という言葉を耳にする機会が増えました。
ニュースやSNSでも、店員への暴言、土下座の強要、
コールセンターでの罵倒などが取り上げられ、
社会問題として注目されています。
カスハラは単なる「接客トラブル」ではありません。
放置すれば、従業員のメンタルヘルスを損ない、
企業の社会的信用を失墜させ、最悪の場合「訴訟リスク」に
発展する重大な経営課題です。
1. なぜ今、カスハラが問題になっているのか
背景には、コロナ禍以降の社会不安、デジタル化の進展、
そして“お客様は神様”という古い価値観の残存があります。
消費者がSNSで企業を簡単に批判できるようになったことで、
一部の顧客が「自分の要求は絶対に通る」と誤解し、
過剰な要求や攻撃的な態度を取るケースが増えています。
また、働き手不足により接客現場の負担は増加。
「理不尽な顧客対応」+「人員不足」+「社内の支援不足」
という三重苦が、現場のストレスを限界まで押し上げているのです。
2. カスタマーハラスメントとは
厚生労働省はカスハラを次のように定義しています。
「顧客や取引先などからの暴行、脅迫、威圧的な言動、
過度な要求、長時間の拘束などにより、
労働者の就業環境が害されること」
つまり、暴力や暴言だけでなく、長時間の電話や執拗なクレーム、
SNS上での誹謗中傷などもカスハラに含まれます。
カスハラの主な類型は以下の通りです。
- 暴言・脅迫(怒鳴る、人格否定をする)
- 暴力行為(物を投げる、机を叩く)
- 過剰・不当な要求(無償対応、土下座要求など)
- 長時間拘束(何時間も電話で文句を言う)
- セクシュアルハラスメント(容姿や年齢への言及)
- SNS等による誹謗中傷・晒し行為
3. 増加するカスハラ被害の実態
厚生労働省の調査(2023年度)では、
**約7割の企業が「カスハラの被害を経験した」**
と回答しています。
特に多い業種は以下の通りです。
- 小売・飲食業
- 医療・介護
- コールセンター・サービス業
- 交通・運輸
また、ピースマインド社の調査によれば、
カスハラによる企業損失は年間約2,730億円にのぼると推計されています。
これは離職や休職、訴訟対応などの「見えないコスト」を含む金額です。
つまりカスハラは、従業員の心身だけでなく、
企業の財務にも深刻な影響を与える問題なのです。
4. カスハラが企業にもたらす法的リスク
企業は「労働契約法第5条(安全配慮義務)」に基づき、
従業員が安全・健康に働ける職場環境を提供する義務を負っています。
労働契約法第5条:
「使用者は、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ
労働できるよう必要な配慮をしなければならない」
この義務を怠ると、「安全配慮義務違反」として
損害賠償責任を問われることがあります。
特に次のような対応が見られると、
企業側の責任が追及される可能性が高まります。
- 顧客の暴言・暴力に対して会社が何もしなかった
- 相談しても「接客だから仕方ない」と片づけた
- 明らかに理不尽なクレームを一人で対応させた
- 記録も残さず、再発防止策を講じなかった
このような状況が続けば、企業は「従業員を守らなかった」
として訴えられるリスクがあるのです。
5. 裁判事例に学ぶ ― 安全配慮義務違反が認められたケース
実際に、東京地裁平成25年2月19日の判決では、
患者からの暴言や暴力を受け続けた看護師がうつ病を発症。
病院の対応が不十分だったとして「安全配慮義務違反」が認められ、
損害賠償が命じられました。
この判例は医療現場に限らず、接客・販売・コールセンターなど、
「顧客対応を伴うすべての職種」に共通する教訓といえます。
また、近年ではコールセンター職員が顧客の暴言により
退職を余儀なくされた事例や、
飲食店スタッフがSNSで晒されたケースもあり、
社会的注目が高まっています。
6. カスハラを放置することで失うもの
企業がカスハラを放置した場合、
単に法的責任を問われるだけではありません。
- 従業員の離職・採用コスト増
- 職場のモチベーション低下
- 生産性の低下
- 企業ブランドの毀損
- SNS炎上による reputational risk(評判リスク)
「お客様の言いなり」になることが“顧客満足”ではありません。
むしろ、従業員が安心して働ける環境があるからこそ、
真に誠実な顧客対応が実現するのです。
7. カスハラ対策の4つの柱
カスハラ対策は一過性のキャンペーンではなく、
組織的な仕組みづくりが必要です。
具体的には次の4つの柱が基本です。
① カスハラ対応方針の明文化と周知
「顧客による不当な言動は許さない」という
明確なメッセージを経営トップが発信すること。
社内規程や就業規則に明記し、
社内研修で繰り返し伝えることが大切です。
② 現場での対応マニュアル整備
どのような行為がカスハラに該当し、
どう対応すべきかを具体的に示すマニュアルを用意します。
「対応を打ち切る判断基準」や
「上司へのエスカレーション手順」も明確に。
③ クレーム対応研修の実施
現場社員が自信を持って対応できるよう、
心理的スキルや伝え方をトレーニング。
「怒りの感情を鎮める言葉」「境界線の引き方」
「感情労働のセルフケア」などを扱うと効果的です。
④ 相談窓口と記録体制の整備
記録がないと、後で「言った・言わない」になります。
被害報告の仕組みを整備し、
エビデンスを残すことが再発防止にもつながります。
8. 現場でできる実践的な工夫
- クレーム対応は一人で抱え込ませない
- 暴言・脅迫は「録音・記録」を徹底
- 相談しやすい雰囲気づくり
- 感情の切り替え訓練(アンガーマネジメント)
- メンタルサポート(EAPなど外部機関活用)
特に、上司が「大変だったね」と一言かけるだけで、
現場の安心感は大きく変わります。
心理的安全性を高めることが、
ハラスメントの予防にも直結します。
9. 経営層・管理職が果たすべき役割
経営層は、“顧客中心”と“従業員保護”の
バランスを取る責任があります。
「顧客満足」だけを追求する時代は終わりました。
これからは「従業員満足なくして顧客満足なし」です。
管理職は、現場の声を吸い上げ、
早期に対応する役割を担います。
放置すれば「黙認」とみなされることもあり、
リーダーとしての姿勢が問われます。
10. 心理学から見るカスハラの背景
心理学的に見ると、カスハラをする人の多くは
「自分が被害者である」という認知バイアスを持っています。
「自分は正しい」「相手が悪い」と思い込み、攻撃的な態度に出る。
これは“アンガー・トライアングル”(怒りの三角形)
と呼ばれる構造の典型です。
一方で、対応する従業員側は“感情労働”により
ストレスを抱えやすい。
感情を抑え続けると、燃え尽き症候群や
うつ状態につながることもあります。
したがって、心理的安全性を高める職場づくりは、
メンタルヘルス対策と表裏一体なのです。
11. コンプライアンスの視点から
2022年に厚労省が策定した
「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、
企業が取るべき基本方針を示しています。
この中では、「従業員の人権を守ることは企業の社会的責任である」
と明記されています。
つまり、カスハラ対策は
**“法令遵守”の枠を超えた経営課題**。
ESG経営や人的資本経営の文脈でも、
従業員の安全と尊厳を守る姿勢が問われる時代です。
12. まとめ ― 対策はコストではなく「信頼への投資」
カスハラを「接客の一部」として放置してきた時代は終わりました。
従業員を守る体制がなければ、
「企業が責任を果たさなかった」として訴えられる時代です。
カスハラ対策は、
- 従業員の定着率を高め
- 顧客との信頼関係を強化し
- 企業ブランドを守る
という、“三方よし”の経営戦略です。
「守られている」と感じられる職場ほど、
人は誇りをもって働けます。
対策はコストではなく、“信頼への投資”です。
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