2026年10月、カスハラ対策は“選択”ではなくなる
― 今、企業が準備すべきこと ―

In ブログ by actrate_sample

こんにちは。
さくら人材コンサルティング株式会社の伊藤明美です。

先日、関東でも雪が降りましたね。
寒さの中で働く従業員の姿を見ながら、ふと考えました。

“私たちは、本当に従業員を守れる組織だろうか”と。

2026年10月、いよいよカスタマーハラスメントに関する
法整備が本格化します。

これまで「対策をしたほうが良い」と言われていたカスハラが、
企業として向き合わなければならないテーマになります。

第1章 2026年10月、何が本当に変わるのか

2026年10月、カスタマーハラスメント対策は「努力目標」から、
実質的な責務へと位置づけが明確になります。

ここで一度、冷静に考えてみたいのです。
法律ができることで、企業にとって何が変わるのでしょうか。

「罰則が増えるのか」
「すぐに訴えられるのか」

そのような不安の声を、研修の現場でも耳にします。
しかし、実務の観点から見ると、最も大きな変化は“罰則”ではありません。

変わるのは、「企業の説明責任」です。

■これまでとの決定的な違い

これまでも企業には、従業員の安全を守る責任、いわゆる
「安全配慮義務」がありました。

これは難しい法律用語ですが、簡単に言えば、
従業員が安心して働ける環境を整える責任ということです。

ただし、カスハラについては、

  • 現場で何とか対応する
  • 上司の判断に委ねる
  • 深刻化したら人事が介入する

という“運用依存型”の企業が少なくありませんでした。

2026年10月以降は、
「対応していたかどうか」ではなく、

  • 予防策を講じていたか
  • 方針を明確にしていたか
  • 相談体制を整備していたか

が、より具体的に問われます。

■なぜ今、明確化されるのか

背景には、日本社会の変化があります。

  • SNSでの炎上拡大
  • 人手不足による離職リスク
  • 心理的安全性への関心の高まり

かつては「クレーム対応は現場の仕事」とされてきました。
しかし、顧客からの暴言や長時間拘束、理不尽な要求が続く中で、
従業員が疲弊し、退職に至るケースが顕在化しています。

ここで企業が問われるのは、
「顧客満足を優先した結果、従業員が傷ついていないか」
という視点です。

■「お客様だから仕方ない」は通用するか

現場の管理職からは、率直な声が上がります。

「顧客に強く出れば、取引がなくなるかもしれない」
「現場は板挟みだ」

その葛藤は理解できます。
しかし、企業として考えなければならないのは、
短期的な取引継続と、長期的な人材定着のどちらを優先するのか、
という問いです。

従業員が安心して働けない環境は、
結果としてサービス品質にも影響します。

■法施行は“終わり”ではない

重要なのは、2026年10月がゴールではないということです。
制度は枠組みを示しますが、実際に現場を守るのは企業の姿勢です。

例えば、次の問いに即答できるでしょうか。

  • 自社のカスハラ定義は明確か
  • 管理職は初動対応を理解しているか
  • 相談後の流れは透明か

もし曖昧であれば、今が整備のタイミングです。

■準備は「規程作成」だけでは足りない

規程を作ることは出発点に過ぎません。

実際に必要なのは、

  • 判断基準の共有
  • 記録の徹底
  • 管理職への支援
  • 外部相談体制の検討

といった“運用の具体化”です。
制度があるだけでは、現場は動きません。

■問いかけ

自社では、顧客からの理不尽な言動があったとき、
誰が、どの基準で、どう判断するのか
明確になっていますか。

それとも、
「その場でうまく収める」ことに依存していませんか。

2026年10月は、その曖昧さが許容されにくくなる節目です。

次章では、なぜカスハラ対応を現場任せにすることがリスクなのか、
構造的に整理していきます。

第2章 なぜカスハラは「現場任せ」では限界なのか

前章では、2026年10月以降に企業の説明責任がより明確に
問われることを整理しました。

では次に考えたいのは、なぜカスタマーハラスメント対応を
「現場任せ」にしておくことが限界なのか、という点です。

多くの企業では、これまで次のような対応が一般的でした。

  • まずは現場で謝罪・収束を図る
  • 収まらなければ上司が出る
  • 深刻化したら人事が対応する

一見、合理的に見えます。
しかし、この構造には大きなリスクが潜んでいます。

■属人的判断は、組織リスクになる

現場任せの最大の問題は、「判断基準が人によって違う」ことです。

例えば、同じような暴言を受けた場合でも

  • A管理職は「顧客だから仕方ない」と受け流す
  • B管理職は「即時退店」と判断する

このばらつきがあると、現場は混乱します。

従業員からすれば、
「上司によって守られるかどうかが変わる」
という状態です。

これは心理的安全性を損ないます。

■現場は“板挟み”になりやすい

カスハラの最前線に立つのは、現場社員です。

  • クレームを受け止める
  • 取引を守る
  • 売上を維持する

同時に、
自分の尊厳も守りたい
会社に評価されたい

この板挟みの中で、無理を重ねてしまうケースは少なくありません。
さらに、上司がこう言ったとします。

「うまく対応してくれ」
「大ごとにしないでほしい」

悪意はなくても、
“我慢することが期待されている”と感じる社員もいます。
この積み重ねが、離職やメンタル不調につながります。

■「その場で収める」文化の危うさ

日本企業には、調和を重んじる文化があります。

そのため、
とりあえず謝る
その場を穏便に終わらせる

という対応が選ばれがちです。

もちろん、すべてのクレームに強硬対応すべきではありません。
しかし、「その場を収める」ことと、「従業員を守る」ことは
同じではありません。

長時間の拘束や人格否定が続く場合でも、
「お客様だから」と許容してしまうと、
企業としての姿勢が問われます。

■よくある誤解

ここで整理しておきたい誤解があります。

「毅然と対応すればよい」

確かに重要な視点です。
しかし、それだけでは不十分です。

問題は、
誰が
どのタイミングで
どの基準で

毅然とするのか、です。
個人の勇気に依存する仕組みは、長続きしません。

■現場任せが招く“見えないコスト”

カスハラが繰り返される職場では、
次のような現象が起きます。

  • 優秀な社員が異動希望を出す
  • 無難な対応しかしなくなる
  • 顧客対応を避けたがる

これらは表面化しにくいコストです。
しかし、サービス品質や組織活力に影響を与えます。

企業として本当に守るべきものは何か。
短期的な取引関係なのか、
それとも長期的な人材基盤なのか。

■経営課題として捉える視点

カスハラは単なる接客トラブルではありません。

  • 人材定着
  • 組織文化
  • リスク管理

これらと直結する経営課題です。
現場の努力に依存するのではなく、
企業として明確な方針と支援体制を示すことが必要です。

■問いかけ

自社では、カスハラが発生した際、

  • 判断基準は統一されていますか
  • 記録は残っていますか
  • 管理職は孤立していませんか

もし一つでも曖昧であれば、
現場任せの状態が続いている可能性があります。

次章では、カスハラ対策について企業が抱きがちな“思い込み”を整理し、
なぜそれがリスクにつながるのかを検証していきます。

第3章 カスハラ対策を誤解していないか ― よくある3つの思い込み

前章では、現場任せの限界について整理しました。

しかし実務の現場で感じるのは、
制度整備以前に「前提の誤解」が存在しているということです。

カスハラ対策を進めようとすると、次のような声が上がります。

  • 「お客様との関係が悪化するのではないか」
  • 「毅然と対応すれば十分ではないか」
  • 「うちはそこまでひどい事例はない」

これらは自然な反応です。
しかし、この思い込みがある限り、対策は表面的になりがちです。

ここでは、代表的な3つの誤解を整理してみます。

■誤解①「お客様は神様だから、強く出られない」

日本企業には、長年にわたり「顧客第一」の文化があります。
その姿勢自体は、企業の信頼を築いてきました。

しかし、顧客尊重と従業員軽視は同義ではありません。
例えば、
人格を否定する暴言
長時間の不当拘束
業務範囲を超える要求

これらを「顧客だから」と許容することは、企業の価値観を曖昧にします。

ここで問われるのは、顧客満足と従業員保護のバランスを、
企業としてどう定義するか、という点です。

毅然と対応することは、顧客軽視ではありません。
むしろ、健全な関係性を守る行為です。

■誤解②「毅然と対応すれば解決する」

研修でもよく聞かれる言葉です。

「毅然と対応すればいいのですよね?」

確かに重要です。
しかし、問題は“誰が”“どの基準で”“どのタイミングで”行うのかです。

例えば、現場社員が一人で毅然と対応するのは、心理的負担が大きい。

  • 上司の後ろ盾はあるのか
  • 会社の方針は明確か
  • 判断後のフォローはあるのか

これが不明確なままでは、「毅然」は現場の勇気任せになります。
本来必要なのは、毅然とするための組織的な支援です。

■誤解③「相談が少ない=問題はない」

この誤解は特に注意が必要です。
相談件数が少ない企業で、「うちは大丈夫です」と言われることがあります。
しかし、相談が少ない理由は複数考えられます。

  • 本当に問題が少ない
  • 言っても無駄だと思われている
  • 相談後の不利益を恐れている

この区別をせずに安心するのは危険です。
相談が上がらないことが、
従業員の安心を意味するとは限りません。

■誤解の背景にある心理

これらの誤解の背景には、共通する心理があります。

  • 波風を立てたくない
  • 顧客を失いたくない
  • 内部問題を表面化させたくない

いずれも経営として理解できる感情です。
しかし、短期的な安定を優先すると、
長期的な信頼を失う可能性があります。

■誤解を超えるための問い

ここで改めて問いかけたいのです。

  • 従業員が理不尽な言動を受けたとき、会社はどの立場に立つのか
  • 顧客対応を理由に、我慢を前提としていないか
  • 管理職は、相談を「厄介」と感じていないか

これらに正面から向き合うことが、対策の出発点です。

■制度は“姿勢”を映す

カスハラ対策は、単なるトラブル対応マニュアルではありません。
企業が何を守るのか、どの価値観を優先するのか。
その姿勢を可視化する制度です。

2026年10月以降、問われるのは形式ではなく実質です。

次章では、「安全配慮義務」という概念を噛み砕きながら、
企業に求められる責任の範囲を具体的に整理していきます。

第4章 企業に求められる「安全配慮義務」とは何か

ここまで、カスハラ対策をめぐる誤解や現場任せの限界を
整理してきました。

では、企業は法的にどこまで責任を負うのでしょうか。
ここで鍵となるのが「安全配慮義務」という考え方です。

法律用語としては少し硬く聞こえますが、意味はシンプルです。

企業は、従業員が安全かつ健康に働ける環境を整える義務がある。
身体的な安全だけでなく、精神的な安全も含まれます。

■カスハラと安全配慮義務の関係

カスタマーハラスメントは、顧客からの行為です。
「社内の出来事ではないのだから、会社の責任は限定的ではないか」
そのような疑問を持つ方もいます。

しかし、企業が従業員に対して負う責任は、

“誰が加害者か”ではなく、
“職場環境としてどう対応したか”で判断されます。

例えば、
長時間の暴言を繰り返されていた
明らかに業務範囲を超える要求があった
上司に相談しても十分な対応がなかった

こうした場合、企業が適切な措置を講じていなければ、
安全配慮義務違反が問われる可能性があります。

■「結果責任」ではなく「プロセス責任」

ここで重要なのは、
企業がすべてのトラブルを完全に防げるわけではないという点です。

問われるのは結果そのものではなく、
予防策を整えていたか
相談体制が機能していたか
事実確認と是正措置を行ったか

という“プロセス”です。

つまり、
「起きたかどうか」ではなく
「起きたときにどう動いたか」

が評価の対象になります。

■中小企業でも同じ基準が求められる

「大企業ならともかく、うちは中小企業だから…」
そう感じる経営者も少なくありません。

しかし、安全配慮義務は企業規模に関係なく適用されます。
もちろん、体制整備の方法は企業規模に応じて異なります。

専任部署を置くことが難しくても、
方針を明文化する
相談窓口を明示する
外部専門家と連携する

といった現実的な対応は可能です。

■“放置”が最も危険

カスハラにおいて最もリスクが高いのは、
重大な出来事そのものよりも「放置」です。

例えば、
何度も同じ顧客からの暴言がある
社員が疲弊していると分かっている
しかし取引関係を優先し、対応を見送る

このような状態が続くと、
企業は「知っていたのに何もしなかった」と評価される可能性があります。

■管理職の責任はどこまでか

現場の管理職にとっても、このテーマは重いものです。
「どこまで自分が責任を負うのか」と感じるのは自然です。

管理職に求められるのは、
初動の事実確認
上位者や人事への報告
自己判断で抱え込まないこと

すべてを一人で解決することではありません。
むしろ、抱え込むことが組織リスクになります。

■問いかけ
自社では、
カスハラに対する会社の基本方針は明文化されていますか
従業員は、安心して相談できると感じていますか
管理職は判断基準を共有していますか

これらが曖昧なままでは、
制度施行後に慌てる可能性があります。

■責任は“罰”ではなく“守り”

安全配慮義務という言葉は、時に企業への負担のように感じられます。

しかし見方を変えれば、これは企業が従業員を守るための枠組みです。

明確な基準と仕組みがあれば、
従業員は安心して働ける
管理職は迷いにくくなる
経営は説明責任を果たせる

次章では、最も判断が難しい“グレー事案”にどう向き合うかを
具体的に整理していきます。

第5章 グレー事案にどう向き合うか ― 判断基準の持ち方

ここまで、安全配慮義務という観点から企業責任を整理してきました。

しかし実務の現場で最も悩ましいのは、
明らかな暴力や脅迫ではなく、“グレー事案”です。

例えば、次のようなケースです。
「誠意を見せろ」と繰り返し強い口調で迫られる
業務時間外に何度も電話がかかってくる
SNSで「対応が悪い」と執拗に書き込まれる
土下座を暗に求められる雰囲気がある

違法と断定するには迷いがある。
しかし、従業員は明らかに疲弊している。

ここで判断を誤ると、問題は深刻化します。

■判断の軸を明確にする

グレー事案に向き合う際に有効なのは、
感情ではなく“基準”で整理することです。

例えば、次の4つの視点です。
業務上の必要性はあるか
要求内容は相当か
継続・反復しているか
従業員に心理的負担を与えているか

これらを順に確認するだけで、議論は整理されます。

「お客様が怒っている」こと自体は、
直ちにカスハラとは言えません。

しかし、業務範囲を超えた要求や、人格否定が含まれる場合は別です。

■“受け止め方の問題”で片づけない

現場でよくある言葉があります。

「受け止め方の問題ではないか」

確かに、感じ方には個人差があります。

しかし、企業として重要なのは、
“どの程度、職場環境に影響が出ているか”
という視点です。

例えば、
その顧客対応を誰も担当したがらない
体調不良を訴える社員が出ている
チーム全体の士気が下がっている

これらは、単なる個人の受け止め方ではありません。

■やってはいけない判断

グレー事案で陥りやすいのは、次の判断です。

× 「今回は我慢して」
× 「大口顧客だから特別扱い」
× 「取引がなくなると困る」

短期的には合理的に見えます。
しかし、従業員が「会社は守ってくれない」と感じた瞬間、
信頼は揺らぎます。

一度失われた信頼を回復するには、時間がかかります。

■望ましい対応の考え方

グレー事案に対しては、

  • 事実を整理する
  • 記録を残す
  • 上位者と共有する
  • 必要に応じて段階的に対応を強める

というプロセスが有効です。
いきなり強硬に出る必要はありません。

しかし、「線引き」は明確にする必要があります。

例えば、
長時間拘束は対応時間を区切る
暴言には注意喚起を行う
業務外要求には対応不可を明示する

このような段階的対応が、組織としての一貫性を生みます。

■判断基準は“共有”してこそ意味がある

重要なのは、基準が“頭の中”にあるだけでは不十分だということです。
管理職間で共有されていなければ、対応はばらつきます。

  • あの部署は強く出る
  • こちらの部署は謝罪優先

この違いは、従業員に混乱を与えます。
基準は明文化し、研修や会議で繰り返し確認することが必要です。

■問いかけ

自社では、
カスハラの定義は具体的ですか
判断基準は管理職に共有されていますか
グレー事案の記録は残っていますか

もし曖昧であれば、2026年10月までに整備する価値があります。

次章では、相談があった際の初動対応について、
やってはいけない例と望ましい例を対比しながら整理していきます。

第6章 やってはいけない初動対応と組織リスク

カスハラ対策において、企業の姿勢が最も明確に表れるのは
「初動対応」です。

どれほど立派な方針や規程があっても、
最初の一言、最初の判断で信頼は左右されます。

現場でよく耳にするのは、こんな声です。

「相談は受けたけれど、どう扱えばよいか分からない」
「大ごとにしたくなかったので、様子を見た」

その迷い自体は自然です。
しかし、初動を誤ると組織リスクは一気に高まります。

■やってはいけない初動① すぐに評価する

相談を受けた瞬間、

「それはカスハラですね」
「いや、そこまでは言えない」

と断定してしまうケースがあります。
しかし、事実確認が不十分な段階での評価は危険です。

早い断定は後の調整を難しくし、
当事者間の対立を固定化します。

まずは、
何が起きたのか
いつ、どこで、どのように
継続しているのか

事実を整理することが優先です。

■やってはいけない初動② 「悪気はない」と擁護する

管理職は、顧客との関係も考慮しなければなりません。
そのため、無意識にこう言ってしまうことがあります。

「悪気はなかったと思う」
「相手も忙しかったのでは」

しかし、この発言は相談者にとっては
「会社は顧客側に立った」と感じさせることがあります。

意図の推測よりも先に、
影響を受けた従業員の状態を確認することが重要です。

■やってはいけない初動③ その場しのぎで終わらせる

「今回は穏便に」
「次は気をつけてもらいましょう」

この対応は一見、調整的に見えます。
しかし、記録が残らず、再発防止策も整理されないままでは、
同じことが繰り返されます。

カスハラ対応は、
“出来事”ではなく“プロセス”として管理する必要があります。

■初動で問われるのは“姿勢”

初動対応の本質は、技術よりも姿勢です。

  • 話を最後まで遮らず聞く
  • 感情を否定しない
  • 会社として整理する意思を示す

これだけでも、従業員の安心感は大きく変わります。

「話してよかった」と感じるか、
「やはり無駄だった」と感じるか。

この差が、次の相談を左右します。

■組織リスクとしての初動ミス

初動を誤ると、次のようなリスクが生じます。
社内での不信感の拡大
外部通報への発展
退職やメンタル不調

特に制度施行後は、
「適切な初動を行ったか」が説明責任の対象になります。

■望ましい初動の3ステップ

整理すると、初動対応は次の3ステップです。

  1. 事実の確認
  2. 感情の受容
  3. プロセスの説明

「会社として整理します」
「このような流れで確認します」

と伝えることで、不透明さを減らせます。

■管理職を一人にしない

初動の難しさは、管理職の心理的負担にもあります。
判断を誤れば責任を問われる。
強く出れば取引に影響する。

この不安を抱えたままでは、判断は揺らぎます。

だからこそ、
上位者へのエスカレーション
人事との連携
外部専門家の活用

が重要です。
初動は個人戦ではありません。

■問いかけ

自社では、
相談があった際の流れは明確ですか
記録は体系的に残されていますか
管理職は孤立していませんか

もし曖昧な部分があるなら、今こそ整備するタイミングです。

次章では、企業が今から具体的に整えるべき準備項目を、
実務レベルで整理していきます。

第7章 現場を守る仕組みづくり ― 今から整えるべき具体的準備項目

ここまで、法的責任、グレー事案の判断、初動対応の重要性を
整理してきました。

では、2026年10月に向けて、企業は具体的に何を
準備すべきなのでしょうか。

「方針を作ることが大事」という抽象論では、現場は動きません。
ここでは、実務レベルで整えておきたい項目を整理します。

■① カスハラ方針の明文化

まず必要なのは、会社としての基本姿勢を明確にすることです。

例えば、
顧客からの不当な要求には応じない
従業員の尊厳を守る
カスハラ行為には段階的対応を行う

といった原則を文章化します。
重要なのは、「抽象的な理念」で終わらせないことです。

・どのような行為を想定するのか
・どのような対応をとるのか
・判断権限は誰にあるのか

ここまで具体化して初めて、現場は安心できます。

■② 判断フローの整理

グレー事案が発生した際に、
「誰が」「どの段階で」「何を基準に」判断するのか。
これを図式化しておくことが有効です。

例えば、
現場での一次対応
管理職への報告
人事・コンプライアンス部門への共有
必要に応じた法的検討

この流れを明確にするだけで、属人的判断は減ります。

■③ 記録体制の整備

対応履歴を残すことは、リスク管理の基本です。
発生日時
内容
対応内容
再発有無

これを体系的に管理することで、傾向分析が可能になります。
また、説明責任を果たす際にも不可欠です。

■④ 相談経路の複線化

相談窓口が上司一本のみ、という企業もあります。
しかし、上司が当事者の場合や、関係性が近すぎる場合、
相談は難しくなります。

  • 人事窓口
  • 匿名相談
  • 外部相談機関

複数ルートを整備することで、心理的ハードルは下がります。
特に中小企業では、外部相談の活用は有効です。

■⑤ 管理職への実践的研修

「知識」だけでは不十分です。
必要なのは、
具体事例を用いたロールプレイ
グレー事案のディスカッション
初動対応の演習

といった実践的内容です。

管理職が
「いざというとき、どう動くか」
をイメージできることが重要です。

■⑥ 経営層のメッセージ

制度整備以上に大きな影響を持つのが、経営層の姿勢です。

  • 従業員を守る方針を明言する
  • 相談を歓迎する姿勢を示す
  • 数字より尊厳を優先する場面をつくる

これが繰り返し発信されることで、文化は変わります。

■準備は“負担”ではなく“投資”

カスハラ対策は、コストのように見えるかもしれません。
しかし、
離職防止
採用力向上
組織信頼の向上

という観点では、明確な投資です。
問題が顕在化してから整えるより、
事前に整える方が、はるかに負担は小さく済みます。

■問いかけ
自社では、
方針は明文化されていますか
判断フローは共有されていますか
記録は体系化されていますか

もし一部でも曖昧であれば、今が整備のタイミングです。
次章では、カスハラ対策を進める上で見落とされがちな
「管理職支援」の重要性について整理します。

第8章 管理職が孤立しないための支援体制

ここまで、企業として整えるべき制度やフローを整理してきました。

しかし実務の現場で強く感じるのは、
カスハラ対策の成否を分けるのは「管理職の孤立度」だということです。

制度が整っていても、
管理職が一人で判断を抱え込んでいれば、対応は揺らぎます。

■管理職は“板挟み”の立場にいる

カスハラが発生したとき、管理職は同時に複数の圧力を受けます。
顧客との関係を維持したい
従業員を守らなければならない
上層部の評価も気になる
業績目標も達成したい

この板挟みは、想像以上に心理的負担が大きいものです。

その結果、
判断を先送りにする
現場に我慢を求める
強く出ることをためらう

といった行動につながることがあります。

■孤立が誤判断を生む構造

人は、孤立すると視野が狭くなります。

  • 「自分の判断で間違えたくない」
  • 「大ごとにしたくない」

この心理が働くと、
問題の本質よりも“その場の収束”を優先しがちです。

カスハラ対策で必要なのは、
管理職が「一人で背負わなくてよい」と実感できる体制です。

■支援体制の具体策

管理職を支えるために、次のような仕組みが有効です。

① 早期エスカレーションの文化
「迷ったら共有する」
これを当たり前にすることが重要です。
共有が「能力不足の証明」ではなく、
「リスク管理の一環」と位置づけられる文化が必要です。

② ケース共有の場
定期的に、
どのような事例があったか
どのように判断したか
どこに迷いがあったか

を共有する場を設けることで、
判断の基準は蓄積されます。
属人的判断が減り、組織知になります。

③ 外部専門家との連携
中小企業では特に有効です。
外部の視点が入ることで、

  • 感情的対立を整理できる
  • 判断の妥当性を確認できる
  • 管理職の心理的負担が軽減される

「外部に相談してよい」という選択肢があるだけで、
安心感は違います。

■管理職支援は“甘やかし”ではない

時に、

「管理職は責任ある立場だから、耐えるべきだ」

という考えもあります。

しかし、孤立した管理職は誤判断をしやすい。
結果として組織全体がリスクを負います。

支援体制は甘やかしではなく、リスク管理の一環です。

■問いかけ

自社では、
管理職が迷いを共有できる場はありますか
上位者は相談を歓迎する姿勢を示していますか
外部相談の選択肢はありますか

もし管理職が「一人で抱える」構造になっているなら、
制度整備と同時に見直す必要があります。

次章では、研修や外部相談を“形骸化”させず、
実効性あるものにするための条件を整理します。

第9章 研修・外部相談を“形骸化”させない方法

ここまでで、制度整備や管理職支援の重要性を整理してきました。
しかし、実務の現場でしばしば起きるのは、
「やるべきことはやったはずなのに、現場が変わらない」という状態です。

  • 研修は実施した
  • 相談窓口も設けた
  • 規程も整備した

それでも、カスハラ対応が属人的なまま、という企業は少なくありません。
その違いはどこにあるのでしょうか。

■研修が“イベント”で終わる構造

研修が形骸化する企業には、いくつかの共通点があります。

  • 年1回の受講で完了とする
  • 知識中心で、議論がない
  • 自社事例が扱われない
  • 研修後のフォローがない

この場合、研修は「知識のインプット」にとどまります。
カスハラ対応に必要なのは、

  • 判断の迷いを言語化すること
  • 自社の基準を確認すること
  • 実際の場面を想定すること

です。

単なる座学では、現場の行動は変わりにくいのが現実です。

■機能する研修の条件

研修が実効性を持つ企業では、次のような工夫が見られます。

  • グレー事案を用いたディスカッション
  • 管理職の迷いを前提にしたケース検討
  • 自社の方針を再確認する時間の確保
  • 研修後の振り返り面談の実施

重要なのは、「自分ごと化」です。
「知っている」から「いざというとき動ける」へ。
ここに橋をかける設計が必要です。

■外部相談窓口が使われない理由

外部相談を設置しても、利用が伸びない企業があります。

その背景には、

  • 本当に守秘されるのか不安
  • 相談後の流れが分からない
  • 結果がどこまで共有されるのか不透明

といった心理があります。
窓口は“あること”が目的ではありません。

  • 利用方法を具体的に周知する
  • 守秘の範囲を明示する
  • 相談後の流れを説明する

これらを繰り返すことで、初めて安心感が生まれます。

■制度と文化のズレを防ぐ

最も注意すべきは、制度と文化のズレです。
規程には「従業員を守る」と書かれている。
しかし現場では「売上優先」が暗黙のメッセージになっている。

このズレがあると、制度は信頼されません。
経営層が、言葉だけでなく行動で示すこと。

例えば、
明らかなカスハラに対して契約を見直す
従業員の負担軽減を優先する

こうした実例が、制度を生きたものにします。

■問いかけ

自社では、
研修は“知識提供”で終わっていませんか
管理職は本音を共有できていますか
外部相談は安心して使える設計になっていますか

もし疑問が残るなら、運用の見直しが必要です。
次章では、本記事のまとめとして、
2026年10月以降に企業が問われる本質的な責任について整理します。

第10章 「従業員を守る企業」だけが選ばれる時代へ

ここまで、2026年10月を一つの節目として、

  • 法的責任の明確化
  • 現場任せの限界
  • グレー事案の判断基準
  • 初動対応の重要性
  • 管理職支援と制度運用

を整理してきました。
最後に、改めて問いかけたいと思います。

2026年10月以降、企業に本当に問われるものは何でしょうか。

■法令対応は“最低限”

規程を整え、相談窓口を設置し、研修を実施する。
これらは必要です。

しかし、それはあくまで最低限の枠組みに過ぎません。
制度があるだけでは、現場は守られません。
重要なのは、

  • 困ったときに声を上げられるか
  • 管理職が迷いを共有できるか
  • 経営が従業員の尊厳を優先する姿勢を示せるか

という“文化”です。

■短期的利益と長期的信頼

カスハラ対応の場面では、必ず葛藤が生まれます。

  • 取引を守るか
  • 従業員を守るか

短期的には、顧客との関係維持が合理的に見える場面もあります。
しかし、理不尽な言動を許容し続ける企業は、
いずれ内部から信頼を失います。

優秀な人材ほど、
「自分が尊重されるか」を見ています。
カスハラ対策は、リスク回避策であると同時に、
人材戦略でもあります。

■相談が出る組織は、強い

相談件数が増えることを恐れる企業もあります。
しかし、相談が出る組織は、
それだけ“信頼の回路”が機能している可能性があります。

問題は、
相談が出ないこと
出ても握りつぶされること
管理職が孤立すること

です。
声が出る組織は、改善も進みます。

■2026年10月は「スタートライン」

制度施行は、終わりではありません。
むしろ、
判断基準の明確化
運用の見直し
経営姿勢の再確認

を迫られるスタートです。
形式的な対応で乗り切ることも可能かもしれません。
しかし、それでは現場の安心は生まれません。

■最後の問いかけ

自社は、
従業員に「守られている」と感じてもらえる組織でしょうか。
管理職が一人で背負わなくてよい仕組みがありますか。
カスハラに対して、明確な線引きを持っていますか。

2026年10月以降、
企業は“選ばれる存在”であるかどうかがより可視化されます。

顧客から選ばれる企業。
そして、働く人からも選ばれる企業。

その違いは、制度の厚さではなく、姿勢の一貫性にあります。
カスハラ対策は、単なる法令対応ではありません。
組織の価値観を形にする取り組みです。

今、準備を始めることが、未来の信頼を守ることにつながります。

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