
「それってハラスメントですか?」と聞かれる時代に~境界線が曖昧な職場で 管理職が本当に身につけるべき視点とは~
こんにちは。さくら人材コンサルティング株式会社の伊藤明美です。
私たちは今、職場のコミュニケーションにおいて、
かつてないほどの転換期に立たされています。
企業の経営層や人事ご担当者様、そして現場を預かる管理職の方々と
対話をする中で、最近もっとも耳にするのは「指導の難しさ」に対する
戸惑いの声です。
「これを言ったらハラスメントだと思われないか」
「部下のミスを指摘したいが、翌日から会社に来なくなったらどうしよう」
「良かれと思ってかけた言葉が、思わぬ反発を招いてしまった」
こうした不安は、決してあなたの指導力が不足しているからではありません。
社会全体が「ハラスメント」という言葉に対して非常に敏感になり、
同時に「職場における正しさ」の定義が塗り替えられているからなのです。
本記事では、この「境界線が曖昧な時代」を生き抜くための
マインドセットと具体的なスキルを、心理学や現場事例を交えて
徹底的に解説していきます。
序章:ハラスメントを取り巻く社会情勢の変化
- 「ハラスメント=悪」から「ハラスメント=経営リスク」へ
かつて、職場における厳しい指導は「愛のムチ」や「熱意の表れ」
として肯定される側面がありました。
しかし、2020年(中小企業は2022年)に施行された通称「パワハラ防止法」により、
ハラスメント対策はもはや企業の「努力義務」ではなく、明確な「法的義務」へと
変わりました。
今やハラスメントの問題は、個人の人間関係のトラブルにとどまりません。
一度ハラスメント事案が発生すれば、企業のブランドイメージは失墜し、
優秀な人材の離職を招き、最悪の場合は多額の損害賠償請求へと発展します。
つまり、ハラスメント対策は現代における最重要の「リスクマネジメント」
そのものなのです。
- 「不機嫌」がコストになる時代
近年、注目されている概念に「心理的安全性能」があります。
Googleの研究でも明らかになった通り、生産性の高いチームの共通点は
「何を言っても否定されない、拒絶されない」という安心感があることです。
逆に、管理職が常にイライラしていたり、高圧的な態度をとっていたりする職場では、
部下は「叱られないこと」を最優先に行動するようになります。その結果、
ミスは隠蔽され、新しいアイデアは出なくなり、組織の成長は止まります。
つまり、リーダーの「不機嫌」や「不適切な言動」は、組織の生産性を
著しく低下させる「目に見えないコスト」となっているのです。
第1章:なぜ「境界線」が見えなくなったのか
多くの管理職が「昔は良かった」と感じてしまうのは、かつて共有されていた
「暗黙のルール」が崩壊したからです。
なぜ今、これほどまでに境界線が曖昧になっているのでしょうか。
- 昭和・平成・令和:指導観の「地殻変動」
私たちが置かれている状況を理解するために、時代ごとの指導観を
整理してみましょう。
- 昭和(滅私奉公の時代): 組織のために個を犠牲にするのが美徳。
上司の命令は絶対であり、厳しい叱責も「一人前に育てるため」という
共通認識がありました。
- 平成(成果主義と個の目覚め): バブル崩壊後、効率化が
求められる中で「成果を出せば良い」という個人主義が台頭。
同時に、セクハラやパワハラという言葉が浸透し始めました。 - 令和(共感と多様性の時代): 「何のために働くか」という
問いに対して、自己実現やワークライフバランスを重視する
世代が中心に。精神的な充足感や「尊重されている実感」が
何より重視されます。
この変遷の中で、多くの管理職は「昭和・平成のOS(考え方)」を
インストールしたまま、令和という全く異なるソフトウェアの上で
働かされている状態です。
この「OSのミスマッチ」が、戸惑いの根本原因です。
- ハイコンテクスト文化の崩壊と「言語化」の必要性
日本企業は長らく、言わなくても伝わる「阿吽(あうん)の呼吸」を
大切にするハイコンテクストな文化を持っていました。
「背中を見て育て」「空気感で察しろ」という教育が成立していたのは、
社員のバックグラウンド(性別、教育、価値観)が似通っていたからです。
しかし、現代は多様性の時代です。
- 育児や介護をしながら働く人
- 副業を持ち、複数のコミュニティに属する人
- 異なる文化圏で育った外国籍の社員
- デジタルネイティブの若手層
これだけ背景が異なる人々が集まる場所では、「察しろ」は
通用しません。自分にとっての「当たり前」は、相手にとっての
「非常識」である可能性が高いのです。
この「価値観の断絶」が、無自覚なハラスメント(グレーゾーン)を
生む土壌となっています。
- SNS社会がもたらした「可視化」と「比較」
今の時代、職場でのやり取りは容易に録音・録画、あるいはSNSへの
投稿によって可視化されます。
かつては密室で行われていた指導が、一瞬にして公の場に
さらされるリスクを孕んでいます。
また、若手社員はSNSを通じて、他社のホワイトな環境や先進的な
マネジメント事例を日常的に目にしています。
「うちの会社がおかしいのではないか?」という疑問を持ちやすい環境にあり、
それがハラスメントへの感度を高めている一因でもあります。
ここまでは、時代背景という大きな視点から「なぜ今、難しいのか」を
お伝えしました。
次の「第2章」では、より具体的に、法的な定義と現場の感覚が
どうズレているのか、そして脳科学的な視点から見た「攻撃」と
「指導」の違いについて深掘りしていきましょう。
第2章:ハラスメントの正体を解剖する
「ハラスメント」という言葉が独り歩きし、何でもかんでも
ハラスメントだと言われる「ハラスメント・ハラスメント(ハラハラ)」
という言葉まで生まれています。
しかし、恐れるあまりに指導を止めてしまうのは、管理職としての
職務放棄になりかねません。
正しく向き合うためには、まず「何がハラスメントで、何が指導なのか」の
正体を正しく知る必要があります。
- 法的な定義と「現場の感覚」にある深い溝
厚生労働省が定めるパワーハラスメントの定義には、以下の3つの要素が
すべて含まれるものとされています。
- 優越的な関係を背景とした言動
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
- 労働者の就業環境が害されるもの
ここで最も大きな問題となるのが、2つ目の「業務上必要かつ相当な範囲」
という言葉です。 管理職側は「ミスをリカバーするために、厳しく言うのは
業務上必要だ」と判断します。
しかし、受け手側は「あんな言い方をされる必要はない(範囲を超えている)」
と感じます。
この「必要性の解釈」にズレが生じることが、グレーゾーン問題の本質です。
現場の感覚として重要なのは、「業務上の必要性」という免罪符は、
表現の不適切さを正当化しないという点です。
内容は正しくても、伝え方が「人格否定」や「執拗な攻撃」に見えれば、
それは即座にハラスメントの領域へと足を踏み入れることになります。
- 脳科学から見る「攻撃」と「指導」の分水嶺
なぜ、ある人の指導は「励み」になり、ある人の指導は「トラウマ」に
なるのでしょうか。これには脳の仕組みが大きく関わっています。
人間が強い口調で叱責されたり、冷淡な態度をとられたりすると、
脳内の「扁桃体(へんとうたい)」という部分が即座に反応します。
これは生存の危機を感じたときに働く部位で、脳は「敵から攻撃を受けている」と
判断し、「戦うか、逃げるか」のモードに切り替わります。
- 戦うモード:
反抗的な態度をとる、心の中で上司を攻撃する - 逃げるモード:
思考が停止する、謝り倒してその場をやり過ごす、欠勤する
この状態になると、理性を司る「前頭前野」が働かなくなります。
つまり、あなたがどれだけ正しいアドバイスを送り、
熱心に教育論を説いたとしても、相手の脳はシャットダウンしており、
「情報」として受け取ることが物理的に不可能になっているのです。
「指導」のつもりが「攻撃」として脳に届いている限り、
教育効果はゼロどころかマイナスになります。
- 「グレーゾーン」を形成する8つの危険な言動パターン
具体的に、どのような言動が「グレーゾーン」と見なされやすいのか。
私が現場で受ける相談の中から、特に多い8つのパターンを整理しました。
- 「期待しているからこそ」の過負荷:
成長を促す名目で、明らかにキャパシティを超えた業務を押し付ける。 - 「正論」の武器化:
正論を振りかざして相手を逃げ場のないところまで追い詰める。 - 比較による鼓舞:
「Aさんはできているのに」と他人と比較して発破をかける
(劣等感を煽る)。 - プライベートへの過干渉:
親睦を深めるつもりでの家族構成や休日の過ごし方への執拗な質問。 - 放置(消極的ハラスメント):
指導に自信を失い、必要なアドバイスすら与えない「無視」の状態。 - 感情のダダ漏れ:
言葉は丁寧だが、不機嫌そうな顔、大きなため息、
ペンを置く音などで威圧する。 - 一貫性のなさ:
その日の気分で指示が変わる。部下は常に上司の顔色を
伺わなければならなくなる。 - 公開処刑:
メールのCCに多くの人を入れ、見せしめのようにミスを指摘する。
これらの一つひとつは、即座に「クロ(違法)」と判定されるわけではありません。
しかし、これらが積み重なり、部下が「ここでは安心して働けない」と感じたとき、
一気にハラスメント事案として爆発します。
- 「意図」が「受け止め方」に負ける理由
「そんなつもりじゃなかった」という言葉は、ハラスメント加害者側が
最も多く口にする言葉です。
しかし、コミュニケーションの世界には「メッセージの意味は、
受け取った側の反応で決まる」という大原則があります。
かつての階層社会では、発信者(上司)にパワーがあったため、
発信者の意図が優先されました。
しかし、個人を尊重する現代社会では、受け手の「不快感」や
「受けるダメージ」にスポットライトが当たります。
これは、例えばあなたが誰かの足を踏んでしまった時、
「わざとじゃない(意図)」と主張しても、相手の足が痛んでいる
(事実・影響)という現実は変わらないのと同じです。
まず「痛かったですね」と共感し、その上で「どうすればよかったか」を考える。
この順番が、マネジメントにおいても不可欠になっています。
第2章では、ハラスメントの構造と脳の仕組みについて詳しく見てきました。
続く「第3章」では、いよいよ具体策に入ります。
管理職をハラスメントの恐怖から解放し、かつ適切に部下を成長させるための
「新時代の指導メソッド」を解説します。
第3章:管理職を救う「新時代の指導」メソッド
ハラスメント対策の本質は「言葉を飲み込むこと」ではありません。
むしろ、**「伝え方の精度を極限まで高めること」にあります。
自分の感情に振り回されず、部下のパフォーマンスを最大化させるための
具体的な3つのステップを見ていきましょう。
- アンガーマネジメントの極意:怒りの「正体」を突き止める
「怒り」は、管理職がもっともコントロールすべき感情です。
しかし、アンガーマネジメントは「怒ってはいけない」と
教えるものではありません。
怒りは「二次感情」と呼ばれます。その下には必ず、
「一次感情(不安、焦り、失望、悲しみ、期待)」が隠れています。
例えば、部下が大きなミスをしたとき、あなたはなぜ怒るのでしょうか?
- 「クライアントからの信頼を失うのが怖い(不安)」
- 「納期に間に合わないのではないかという焦り」
- 「何度も教えたはずなのにという失望」
こうした「一次感情」を無視して、表面の「怒り」だけをぶつけてしまうから、
相手は攻撃されたと感じるのです。
メソッド:感情の言語化
部下を叱る前に、自分に問いかけてください。「私は今、何に焦っているのか?
何を心配しているのか?」。自分の本音(一次感情)に気づくだけで、
怒りのトーンは驚くほど落ち着きます。
- アサーティブ・コミュニケーション:対等な立場で「NO」を言う
アサーティブとは、「自分も相手も大切にする自己表現」のことです。
管理職には、相手を威圧する「攻撃的」な態度も、相手に気を使いすぎる
「非主張的」な態度も適しません。
ここで活用したいのが「DESC法(デスク法)」というフレームワークです。
- D (Describe):客観的な事実を述べる
「今月、報告書の提出が3回遅れているね」 - E (Explain/Express):自分の主観的な気持ちを伝える
「このままだとチームの進捗に影響が出るのではないかと、
私は心配しているんだ」 - S (Specify):具体的な提案・解決策を出す
「期限の1日前に一度進捗を共有してくれないか?」 - C (Consequences):承諾した(しなかった)場合の結果を伝える
「そうしてくれれば、私も早めにフォローできるし、
君も安心して進められると思う」
この手法のポイントは、「相手の人格(お前はだらしない)」を責めるのではなく、
「解決すべき課題(期限の遅れ)」にフォーカスしている点です。
事実に基づいた対話は、ハラスメントのリスクを劇的に下げます。
- 「I(アイ)メッセージ」の魔法
多くの指導がハラスメントに聞こえてしまうのは、主語が「You(あなた)」に
なっているからです。
- 「(あなたは)なぜこんなミスをしたんだ?」
- 「(あなたは)もっと自覚を持つべきだ」
「You」を主語にすると、相手は裁かれている、あるいは操作されているような
感覚を抱きます。
これを「I(わたし)」を主語にしたメッセージに変えてみましょう。
- 「ミスが続いている状況について、私はとても残念に思っている」
- 「君ならもっと高い成果を出せると信じていただけに、私は悔しいんだ」
主語を自分にすることで、それは「命令」ではなく、あなたの
「感想・願い」になります。
人間は他人から命令されることには抵抗しますが、「相手がどう感じているか」
という事実に対しては、否定しにくいという心理的特性があります。
これが、相手の心に届く指導の第一歩です。
- フィードバックの「鮮度」と「場所」を徹底する
どれだけ正しいメソッドを使っても、タイミングと環境を間違えれば
ハラスメントになり得ます。
- 即時性:
問題が起きたら、その日のうちに、あるいは直後に伝えます。
数週間前のことを持ち出されると、相手は「ずっと根に持たれていた」と
不信感を抱きます。 - クローズドな環境:
「衆人環視(みんなの前)」での叱責は、現代では一発アウトの
パワハラと見なされるリスクが極めて高いです。
たとえ軽い注意であっても、周囲に人がいない場所や個別のチャット、
会議室に移動する配慮が必要です。
- 「沈黙」の質を変える:アクティブ・リスニング
実は、ハラスメントと言われやすい管理職に共通しているのは
「自分の話ばかりしている」という点です。
相手に「納得感」があれば、少々厳しい指導でもハラスメントにはなりません。
そして納得感を生むのは、上司の言葉の数ではなく、「自分の言い分を
聴いてもらった」という実感です。
指導の時間の半分は、相手の話を聴くことに割いてください。
「何か事情があったのか?」「今の業務量についてどう感じているか?」。
相手にボールを投げ、最後まで遮らずに聴く。
この「聴く姿勢」が、ハラスメントを防ぐ最強の盾となります。
第3章では、個人でできる具体的なスキルを解説しました。
続く「第4章」では、さらに踏み込み、現場で起こりがちな具体的な
トラブル事例をベースに、「これはアウト?セーフ?」という境界線の
見極めと、正しいリカバーの方法をマニュアル形式で徹底解説します。
第4章:ケーススタディと対策マニュアル
「何がアウトで、何がセーフか」という明確な基準を欲する声は多いですが、
実際にはその言動が「どのような文脈で行われたか」が重要です。
ここでは、現代の職場で頻発している3つの象徴的なケースを挙げ、
その「危うさ」と「正解のルート」を解説します。
ケース①:リモートワーク・チャットツールでの「テキストハラスメント」
【状況】 テレワーク中の部下に対し、進捗確認のチャットを送信。
返信が15分ないことに苛立ち、「サボっているんじゃないか?」
「給料泥棒だぞ」といったメッセージを送信した。
- ハラスメントの判定:アウト
なぜダメなのか:
テキストコミュニケーションは、対面よりも「感情」が強く伝わります。
また、記録が永久に残るため、一時の感情で送った言葉が
動かぬ証拠となります。
「サボっている」「給料泥棒」といった言葉は、業務上の必要性を超えた
人格否定であり、典型的なパワハラに該当します。 - 正しいリカバーと対策:
まずは「ルール化」が先決です。返信の期限(例:1時間以内)を
事前に合意しておくこと。
もし遅れた場合は、「何かトラブルがあったのか?」「体調が悪いのか?」と、
相手の状況を気遣う一言から入ります。
事実の確認(E:Explain)から入ることで、威圧感を消すことができます。
ケース②:期待を込めた「過干渉(ヘリコプター上司)」
【状況】 期待している若手社員に対し、成長してほしい一心で
毎日1時間を超える個別面談を実施。「君のためを思って言っているんだ」と、
仕事の進め方からプライベートの時間の使い方まで細かくアドバイス(矯正)
しようとした。
- ハラスメントの判定:グレー(執拗であればアウト)
なぜダメなのか:
上司側に「善意(君のため)」があることが、逆に問題を複雑にします。
相手がそれを「拘束」や「監視」と感じ、精神的な苦痛を覚えている場合、
就業環境を悪化させているとみなされます。
特にプライベートの時間の使い方への干渉は、公私の境界線を
踏み越える行為です。 - 正しいリカバーと対策:
「自分のやり方を押し付けていないか」を自問してください。
指導のゴールは「相手が成果を出すこと」であり、「自分と同じやり方を
させること」ではありません。
アドバイスは3割に留め、残りの7割は「君はどうしたい?」と
本人の裁量を尊重する問いかけに変えましょう。
ケース③:逆パワハラへの恐怖と「放置」
【状況】 部下にミスを注意した際、「それ、パワハラですよ」と言い返された。
それ以来、その部下と関わるのが怖くなり、重要な仕事を振らず、会議でも
意見を求めないようにした。
- ハラスメントの判定:アウト(隔離・排除)
- なぜダメなのか:
「何も言わないこと」もハラスメントになり得ます。
これは「人間関係からの切り離し」と呼ばれ、職権を利用した
嫌がらせと判断されるケースが多いです。注意されたことへの
報復として無視をするのは、管理職としての権限の濫用です。 - 正しいリカバーと対策:
「パワハラだ」と言われたら、感情的に反論せず、まずは
「どの部分がそのように感じさせたのか教えてほしい」と
冷静に聞き返します。
その上で、業務上の指導が必要である事実は譲らず、「伝え方は
改善するが、このミスの修正は必要だ」と、「伝え方」と「内容」を
切り離して対話を継続します。
【実践】境界線を見極める「3つのチェックリスト」
もし、自分が今からしようとしている指導がハラスメントにならないか
迷ったら、心の中で次の3つを確認してください。
- 「公開処刑」になっていないか?
その言葉を、他のメンバーが見ている前で、あるいはCCに
入れた状態で伝える必要がありますか? - 「人格」と「事実」を混同していないか?
「君はやる気がない」と言っていませんか?「期限が遅れたという
事実」について話していますか? - 「過去の自分」を基準にしていないか?
「俺たちの若い頃はもっと厳しかった」という言葉がよぎったら、
それは時代のミスマッチが起きているサインです。
指導の後に「フォローの一言」を添える技術
ハラスメント相談に発展するかどうかの分かれ道は、実は「指導の最中」
ではなく「指導の直後」にあります。
厳しいことを伝えた後に、「厳しいことを言ったけれど、君の〜という
強みを活かしてほしいからなんだ」「期待しているよ」といった
「肯定的なフォロー」があるだけで、部下の脳は「攻撃モード」から
「学習モード」へと切り替わります。
「言いっぱなし」にしない。これが、グレーゾーンを抜け出すための
最もシンプルで効果的な処方箋です。
第4章では、現場のリアルな事案から「アウトの理由」を深掘りしました。
次の「第5章」では、管理職個人だけでなく、「組織としてハラスメントゼロを
どう実現するか」、そして「管理職を孤立させないための仕組み作り」について
解説します。
第5章:組織として取り組む「ハラスメントゼロ」の文化作り
ハラスメントの問題が起きた際、多くの企業は「加害者とされる管理職の
教育」に走ります。
しかし、実はその背後に、管理職を追い詰め、ハラスメントを誘発させる
「組織の歪み」が隠れていることが少なくありません。
- 管理職を「孤立」させないサポート体制の構築
現代の管理職は、上からのプレッシャーと下への配慮に挟まれた
「サンドイッチ状態」にあります。
ハラスメントを恐れるあまり、誰にも相談できずに一人で悩みを抱え込み、
そのストレスが限界を超えた瞬間に部下へ爆発してしまう……という悲劇が
後を絶ちません。
- 「プレイングマネージャー」の限界を認める:
自分の実務をこなしながら、繊細な部下育成も完璧に行う。
この過剰な負荷が、心の余裕を奪います。
組織として、管理職が「マネジメントに専念できる時間」を
意図的に確保することが必要です。 - 管理職専用の「相談窓口」や「ピアサポート」:
「部下への指導に迷っている」という段階で、人事が相談に乗る。
あるいは管理職同士が悩みを共有できる場を作る。
組織が「管理職の味方である」というメッセージを発信し続けることが、
結果として部下への適切な指導につながります。 - 相談窓口を「浄化の場」にする工夫
多くの企業に設置されている相談窓口ですが、「密告の場」のような
暗いイメージを持たれてしまうと、問題が深刻化するまで誰も利用しません。 - 「早期発見」を評価する文化:
トラブルが起きてから動くのではなく、「最近、チームの空気が
重い気がする」といった違和感の段階で相談できる環境を作ります。 - 中立性の担保:
「会社側(上層部)に情報が漏れるのではないか」という疑念を
払拭するため、外部のコンサルタントや専門家を窓口に
活用することも有効です。 - 「叱る権利」の公式な保障
「ハラスメント対策=叱ってはいけない」という誤解が広まると、
今度は「逆パワハラ」や「指導放棄」が横行し、真面目に働く社員が
不利益を被るようになります。
会社は明確に以下のメッセージを打ち出すべきです。
「相手の尊厳を傷つける言動は一切許容しない。
しかし、業務上の正当な指導は、会社が全面的にバックアップする」
この基準が明確であれば、管理職は安心して必要な注意を行うことができます。
組織として「正当な指導のガイドライン」を明文化し、共有することが不可欠です。
- 心理的安全性を高める「仕組み」の導入
個人の性格に頼らず、仕組みで心理的安全性を高めることも可能です。
- 1on1ミーティングの定質化:
単なる進捗確認ではなく、部下の「キャリア観」や「困りごと」を
聴く時間を定期的に設けます。
普段から信頼関係の貯金(心理的資本)があれば、多少厳しい指摘をしても
「自分のために言ってくれている」という信頼が揺らぎません。 - サンクスカードや称賛の文化:
ダメな部分を指摘する時間の数倍、良い部分を「認める」時間を増やします。
肯定的なフィードバックが溢れている職場では、否定的なフィードバックも
「改善のためのデータ」として受け入れられやすくなります。
終章:これからのリーダーシップ
ここまで、ハラスメントという難しいテーマについて、多角的な視点から
考えてきました。
私が最後にお伝えしたいのは、ハラスメント対策の本質とは、単に
「法に触れないこと」ではなく、「一人ひとりが持つ力を、最大限に発揮できる
環境を整えること」だということです。
かつてのリーダーシップは「支配」や「統制」でした。
しかし、これからの時代に求められるリーダーシップは、相手の靴を履いて考える
「共感」と、等身大の自分で向き合う「誠実さ」です。
「それってハラスメントですか?」と聞かれることを恐れる必要はありません。
もしそう聞かれたら、それは「お互いの価値観をすり合わせるチャンス」が
訪れたのだと考えてみてください。
「私は君の成長のためにこう伝えたけれど、君はどう感じたかな?」
そんな対話ができる関係性こそが、これからの強い組織の礎となります。
一人で抱え込まず、時代に合わせた新しい「言葉」と「視点」を
手に入れていきましょう。
さくら人材コンサルティングは、これからも現場で闘う管理職の皆様を、
全力でサポートしてまいります。
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