ハラスメント相談が増える職場、減る職場の決定的な差

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こんにちは。
さくら人材コンサルティング株式会社の伊藤明美です。

【第一章】
なぜ今、「ハラスメント相談が増える職場」と
「減る職場」の差が広がっているのでしょうか?

「ハラスメント相談が増えていて困っている」人事担当者や
管理職の方から、こうした声を聞くことは珍しくありません。

一方で、同じ業界・同じ規模感でも、

「ここ数年、相談が落ち着いてきた」
「大きなトラブルに発展するケースが減った」

と話す企業も確かに存在します。

この差は、どこから生まれているのでしょうか。

まず大前提として確認しておきたいのは、

「相談が増えている=ハラスメントが増えている」とは限らない

という点です。

しかし現場では、どうしてもこうした受け止め方になりがちです。

  • またハラスメントの相談か
  • 些細なことまで問題にされるようになった
  • 昔なら普通だったのに

こうした言葉が、会議室や管理職同士の会話で出てくることも
少なくありません。

この違和感や戸惑い自体は、決して不自然なものではありません。
むしろ、多くの管理職・人事が
「どう判断すればよいのか分からない状態」
に置かれていることの表れだといえます。

「増えている」のは何かを、分けて考える

ここで一度、立ち止まって考えてみてください。
本当に増えているのは、

  • ハラスメント行為そのものなのか
  • ハラスメント“相談”なのか。

この二つは、似ているようでまったく異なります。

相談が増える背景には、次のような要因が
重なっていることが多いのです。

  • 社内窓口や外部相談先が整備された
  • 「相談してよい」というメッセージが浸透してきた
  • 我慢するより、声を上げたほうがよいという認識が広がった

つまり、相談が増えること自体は、職場の変化の結果である場合も
少なくありません。

ところが、ここを整理しないまま
「相談が増えた=職場が悪くなった」
と捉えてしまうと、判断を誤りやすくなります。

現場が感じている“しんどさ”の正体

ではなぜ、相談が増えると現場はこんなにも
疲弊するのでしょうか。

研修や相談の現場でよく聞くのは、次のような本音です。

  • どこまでが指導で、どこからがハラスメントなのか分からない
  • 正解がなく、毎回ヒヤヒヤする
  • 対応しても、どちらかが必ず不満を持つ

これは、管理職や人事の能力の問題ではありません。
判断基準が曖昧なまま、責任だけが重くなっている構造が問題なのです。

特に日本の職場では、
空気を読む
阿吽の呼吸
言わなくても分かるだろう
といった暗黙の了解が、長年機能してきました。

しかし、その前提が崩れつつある今、
「察する文化」に頼ったままでは、ハラスメント対応は立ち行きません。

相談が増える職場と、減る職場の“決定的な違い”

ここで重要なのは、
相談が増える職場と、減る職場の差は
『厳しさ』や『優しさ』ではない
という点です。

  • 厳しい指導をしているから相談が増える
  • 優しくすれば相談は減る

こうした単純な話ではありません。

差を生んでいるのは、
判断の軸が共有されているかどうかです。

  • 何が問題になり得るのか
    どこで線を引くのか
    迷ったとき、どう考えればよいのか

これが言語化され、共有されている職場では、
相談は“爆発”しにくくなります。
逆に、
その場しのぎ
担当者ごとの判断
「前例がないから分からない」

こうした状態が続く職場では、
相談は増え続け、現場の疲弊も深まっていきます。

この先の章では、

  • グレーゾーン事例
  • 管理職が迷う瞬間
  • なぜ同じ言動でも結果が分かれるのか

を、心理学と現場事例の両面から丁寧に解きほぐしていきます。

「うちの会社も、ここが曖昧かもしれない」
そう感じながら読み進めていただければ、この先の章は、
きっと現場判断の助けになるはずです。

【第2章】
「ハラスメントが多い職場」ではなく「相談が増える職場」の正体

第1章で確認したとおり、
ハラスメント相談が増えているからといって、
その職場でハラスメント行為そのものが増えているとは限りません。

しかし現場では、この二つが混同されがちです。

「相談が増えている=何かおかしい職場」
「管理ができていない証拠ではないか」

こうした見方が広がると、
相談対応そのものが“厄介な仕事”として扱われてしまいます。

まずここで、視点を一度切り替えてみましょう。

「相談が増える職場」は、本当に悪い職場なのか

研修や個別相談の場で、私はよくこんな質問を受けます。
「先生、うちは相談が増えているのですが、
これは職場環境が悪化していると考えるべきでしょうか?」

この問いに対して、私は即答を避けます。

なぜなら、相談件数だけでは何も判断できないからです。

例えば、次の二つの職場を想像してみてください。

  • A社:
    相談件数はほぼゼロ。ただし、
    「どうせ言っても無駄」
    「波風を立てたくない」
    という空気が強い。
  • B社:
    軽微な違和感の段階で相談が上がってくる。
    早期に話し合いが行われ、大きなトラブルには発展しにくい。

数字だけ見れば、
「問題が多い」のはB社に見えるかもしれません。
しかし、組織として健全なのはどちらでしょうか。

相談が増える理由は「甘さ」ではない
相談が増える職場について、
管理職の方からよく聞く言葉があります。

  • 最近は打たれ弱い
  • 何でもハラスメントにされる
  • 我慢が足りない

こう感じてしまう気持ちも、無理はありません。

しかし、この見方だけで片付けてしまうと、本質を見誤ります。
相談が増える背景には、次のような変化があります。

  • ハラスメントに関する社会的理解が進んだ
  • 「我慢することが美徳」という価値観が揺らいでいる
  • 心身の不調と職場環境の関連が可視化されてきた

つまり、相談が増えるのは
個人が弱くなったからではなく、
「声を上げてよい」という前提が生まれた結果
とも言えるのです。

現場で起きている“ズレ”

ここで、実際によくあるケースを一つ紹介します
(内容は守秘に配慮し、一般化しています)。

ある管理職が、部下に対して
「この資料、正直言って完成度が低い」
と伝えました。

管理職本人としては、
仕事の質を高めたい
次はもっと良いものを出してほしい
という意図でした。

ところが後日、
「人格を否定されたように感じた」
という相談が人事に入ります。

管理職はこう感じます。
「これがハラスメントなら、
もう何も言えないじゃないか」

一方、相談者はこう感じています。
「どこが悪いのか分からないまま、
否定だけされた」

このすれ違いは、どちらかが極端に間違っている
という話ではありません。

問題は、
どのように伝えればよかったのか
何が“指導”で、何が“問題行為”になり得るのか
その判断基準が、職場で共有されていない点にあります。

「相談が増える職場」の本当の正体

相談が増える職場の多くは、次の特徴を持っています。

  • 明確な悪意あるハラスメントよりもグレーゾーンの迷いが多い
  • 判断を個人に丸投げしている
  • 相談対応の経験値が組織に蓄積されていない

つまり、
相談が増えているのではなく、
「迷いが表に出てきている」状態なのです。

これは、組織が次の段階に進もうとしているサインでもあります。
暗黙の了解に頼れなくなった
言語化・共有が必要になってきた

この変化を
「面倒」「厄介」と捉えるか、
「整備のチャンス」と捉えるかで、
その後の職場は大きく分かれます。

【第3章】
グレーゾーンが職場を疲弊させる ― 管理職が最も迷う瞬間

ハラスメント対応で、管理職や人事が最も消耗するのは、
明らかに「アウト」なケースではありません。

怒鳴る、人格を否定する、執拗に追い詰める――
こうした行為は、今や多くの職場で
「してはいけないこと」として共有されています。

本当に判断が難しいのは、
一見すると指導やコミュニケーションの範囲に見えるケース
いわゆる「グレーゾーン」です。

管理職が立ち止まるのは、こんな場面

現場でよく耳にするのは、次のような声です。
これくらいで問題になるとは思わなかった
悪意はまったくなかった
本人のためを思って言った
こうした言葉が出てくるとき、

管理職はすでに“判断の迷路”に入り込んでいます。
例えば、次のような場面です。

  • 何度も同じミスをする部下に、少し強めの口調で注意した
  • チームの前で改善点を指摘した
  • 冗談のつもりで言った一言が、相手を黙らせてしまった

どれも、単体で見れば即ハラスメントとは言い切れないケースです。

しかし、相談として持ち込まれるのは、
こうした積み重ねの結果であることがほとんどです。

なぜグレーゾーンは、ここまで職場を疲弊させるのか

グレーゾーンの厄介さは、
「正解が一つではない」点にあります。

  • 言った側の意図
  • 受け取った側の感じ方
  • その場の関係性
  • これまでのやり取りの積み重ね

これらが絡み合い、
単純な是非判断を難しくします。

特に日本の職場では、
「言わなくても分かるだろう」
「空気で察してほしい」
という前提が長く機能してきました。

しかし、この前提がずれ始めている今、
同じ言動でも、受け止められ方が大きく変わります。

その結果、
管理職はこう感じるようになります。

「どこまで気をつければいいのか分からない」
「一言一言、地雷を踏まないか不安だ」

この状態が続くと、
指導そのものを避けるようになり、
別の問題が生じます。

「言えなくなる職場」が生む、別のリスク

グレーゾーンへの恐れが強まると、
管理職の行動は極端に振れがちです。

  • なるべく何も言わない
  • 問題があっても見て見ぬふりをする
  • 人事に丸投げする

一見すると、
「トラブルを避けている」ように見えるかもしれません。

しかし実際には、
成長機会を失う部下
不公平感を募らせる周囲
責任を感じて孤立する管理職
といった新たな歪みが生まれていきます。

ハラスメントを恐れるあまり、
健全な指導や対話まで失われてしまう
これは、相談現場で非常によく見られる構図です。

グレーゾーンで本当に問われていること

ここで重要なのは、
「この言動はアウトか、セーフか」
だけを考え続けないことです。

グレーゾーンの多くは、
法律の線引き以前に、
職場の関係性とコミュニケーションの問題として表れます。

  • 相手は、どのように受け止めたのか
  • なぜ、その受け止め方になったのか
  • 別の伝え方はあり得たのか

これらを丁寧に振り返らずに、
白黒だけで処理しようとすると、
納得感のない対応になりやすくなります。

結果として、
相談者は「分かってもらえなかった」と感じ
行為者は「理不尽だ」と感じ
人事・管理職は「もう対応したくない」と疲弊する
こうした悪循環に陥ります。

第4章
なぜ同じ言動でも“問題になる職場”と“ならない職場”があるのか

――心理学から見る背景
第3章で見てきたとおり、
グレーゾーンの問題は「言った・言わない」「強い・弱い」といった
表面的な違いだけでは説明できません。

同じ言葉、同じ指摘、同じ態度であっても、
ある職場では問題になり、
別の職場ではほとんど波風が立たない。

この違いは、どこから生まれるのでしょうか。

「言動」ではなく「文脈」が評価を左右する

ハラスメントの相談対応で、
管理職や人事がよく口にする言葉があります。

「そんなにひどい言い方ではなかったと思う」
「言葉だけ見れば、問題ないのでは?」

確かに、言葉遣いだけを切り取れば、
明らかな暴言ではないケースは多くあります。

しかし、心理学の視点では、
人は言葉そのものよりも“文脈”で意味を判断する
と考えられています。

  • 誰が言ったのか
  • どんな関係性の中で言われたのか
  • これまでどんなやり取りがあったのか

これらが積み重なり、
同じ言葉でも、受け止め方は大きく変わります。

「積み重ね」が人の感じ方を変える

研修や相談の場で、
「この一言が決定打だった」
という表現を耳にすることがあります。

しかし詳しく話を聞いていくと、
その“一言”は、突然出てきたものではありません。

  • 以前から軽く扱われていると感じていた
  • 意見を言っても聞いてもらえなかった
  • 小さな否定が積み重なっていた

こうした背景がある中で、
最後の一言が強く心に刺さるのです。

ここで重要なのは、
問題にされているのは、その瞬間の言動だけではない
という点です。

管理職側が
「そんなつもりはなかった」
と感じるのは自然ですが、

受け手の側では、
「また同じだ」「やっぱり分かってもらえない」
という体験の延長線上にあります。

心理的安全性が低い職場で起きやすいこと

同じ言動でも問題になりやすい職場には、
共通した特徴があります。

それは、心理的安全性が低い状態です。
心理的安全性とは、簡単に言えば、
「不安や違和感を表に出しても大丈夫だと思える感覚」です。

この感覚が低い職場では、

  • 直接その場で言えない
  • 我慢が蓄積される
  • 後から相談という形で噴き出す

という流れが起きやすくなります。

一方、心理的安全性が比較的保たれている職場では、

  • その場で確認や言い直しができる
  • 誤解が早期に修正される
  • 大きな問題に発展しにくい

結果として、同じ言動でも
「問題」になる前に解消されやすくなります。

「受け手の感じ方」をどう扱うかという誤解

ここで、管理職が最も戸惑うポイントがあります。

「受け手の感じ方次第なら、
何を言ってもアウトになってしまうのでは?」

この不安は、非常によく分かります。

しかし、心理学的に見ると、
「受け手の感じ方をすべて正解として扱う」
ということではありません。

重要なのは、
なぜその感じ方が生まれたのかを検討する姿勢です。

  • 個人の過去体験が影響しているのか
  • 職場の関係性や風土が影響しているのか
  • 伝え方に改善の余地があるのか

これを切り分けずに、
「気にしすぎ」「考えすぎ」
と片付けてしまうと、
相談は水面下に潜り、
後でより深刻な形で表面化します。

問題になる職場・ならない職場の決定的な差

ここまでを整理すると、
同じ言動でも結果が分かれる職場の差は、
次の一点に集約されます。

日常的に、違和感を調整する対話が行われているかどうか

  • 小さなズレを放置しない
  • 「そういうつもりじゃなかった」をその場で確認できる
  • 関係性の修復が日常的に行われている

この土台がある職場では、
ハラスメント相談は“突然増える”ことがありません。

逆に、この土台がない職場では、
グレーゾーンの言動が積み重なり、
ある日まとめて相談として噴き出します。

【第5章】
現場でよくある誤解とすれ違い

――管理職・人事が陥りやすい思い込み
ハラスメント相談の対応が難しく感じられる背景には、
制度や法律以前に、認識のズレが存在しています。

しかもそのズレは、
悪意や無関心から生まれるものではありません。

多くの場合、
「良かれと思って」「現場を守ろうとして」
生じている点に、この問題の根深さがあります。

誤解①
「ハラスメント相談=被害者と加害者がはっきりしている」

現場で最も多い思い込みが、これです。
相談が入ると、無意識のうちに

  • 被害者は誰か
  • 加害者は誰か

という構図で考え始めてしまいます。

しかし、実際の相談内容の多くは、
明確な“加害行為”が存在するというより、
関係性の行き違い
コミュニケーションの失敗に近いものです。

それにもかかわらず、
最初から「どちらが悪いのか」という視点で臨むと、

  • 相談者は「訴えを否定された」と感じ
  • 行為者は「一方的に責められた」と感じ

結果として、双方の不信感が深まります。

ハラスメント相談の初期対応で重要なのは、
事実関係の整理と、感じ方の整理を分けて行うことです。

この切り分けができないと、対応は必ずこじれます。

誤解②
「事実確認さえすれば、公平な対応になる」

人事・管理職の多くは、
「公平・中立でなければならない」
という強い責任感を持っています。

その結果、

  • 何があったのか
  • 誰が何を言ったのか

事実確認に力を注ぎます。
もちろん、事実確認は不可欠です。

しかし、ここに一つ落とし穴があります。

それは、
事実が確認できない=対応できない
と考えてしまうことです。

グレーゾーンの相談では、

  • 証拠がない
  • 記録が残っていない
  • 記憶が食い違っている

といったケースがほとんどです。

その結果、
「事実としては認定できません」
という結論だけが伝えられると、
相談者は強い不全感を抱きます。

重要なのは、
事実が確定しなくても、対応できることはある
という視点です。

誤解③
「感情の問題だから、本人の受け止め方の問題」

グレーゾーンの相談で、
つい口にしてしまいがちな言葉があります。

  • 気にしすぎでは?
  • け取り方の問題では?

確かに、感じ方には個人差があります。

しかし、ここで一線を引いて考える必要があります。
心理学的に見ると、
感情は「個人の弱さ」だけで生まれるものではありません。

  • 繰り返しの経験
  • 力関係
  • 安心して話せる環境の有無

こうした要因が重なり、
特定の感じ方が強化されていきます。

「受け止め方の問題」と片付けてしまうと、
職場側が改善できる要素まで見逃してしまいます。

誤解④
「行為者に注意すれば、問題は収まる」

相談が入ると、
「とりあえず行為者に注意しておこう」
という対応が取られることがあります。

一見、迅速で分かりやすい対応に見えますが、
ここにもリスクがあります。

  • 行為者が防衛的になる
  • 何が問題だったのか分からないまま萎縮する
  • 表面的には静かになるが、関係性は悪化する

結果として、
別の形で不満が噴き出す
再度相談が入る
というケースも少なくありません。

グレーゾーンの対応では、
注意よりも「整理」と「調整」が先に必要です。

誤解⑤
「相談が多い職場は、管理ができていない」

相談件数が増えると、
管理職自身が
「自分のマネジメントが悪いのでは」
と自責的になることがあります。

また、経営層から
「相談が多いのは問題だ」
と指摘されるケースもあります。

しかし、相談件数は
職場の成熟度を測る単純な指標にはなりません。

重要なのは、

  • 相談がどの段階で上がってきているか
  • どのように処理されているか
  • 再発しているかどうか

です。

数だけを見て評価すると、
本来守るべき「声を上げる文化」を
自ら壊してしまうことになりかねません。

【第6章】
相談が増える職場で起きている「やってはいけない対応」

ハラスメント相談が減らない職場には、
ある共通点があります。

それは、
「問題を解決しようとしているのに、
結果的に相談を増やしてしまう対応」
が繰り返されていることです。

しかもその多くは、
人事や管理職が

「これが一番無難だろう」
「これ以上こじれないように」

と考えた末の行動です。
つまり、悪意があるわけではありません。

それでも、対応を誤ると、
相談は“収束”ではなく“連鎖”していきます。

やってはいけない対応①
「とにかく静かに終わらせよう」とする

相談を受けた直後、
人事や管理職が最も強く感じるのは、
「これ以上大きくしたくない」という思いです。

  • 余計な波風を立てたくない
  • 他部署に知られたくない
  • チームの雰囲気を壊したくない

その結果、
最小限の聞き取りだけで終わらせる
形式的な注意で済ませる
相談者にも「大事にしないで」と伝える

こうした対応が取られることがあります。

しかし、相談者の側からすると、
「話したのに、何も変わらなかった」
「結局、我慢するしかないのか」
という感覚が残ります。

表面上は静かでも、
納得できない感情は必ず残る

そしてその感情は、
別のタイミングで再び相談という形で現れます。

やってはいけない対応②
事実確認だけで終わらせる

前章でも触れましたが、
「証拠がない」「事実として認定できない」
という理由で、対応を打ち切ってしまうケースは少なくありません。

  • 記録が残っていない
  • 当事者の認識が食い違っている
  • 客観的に判断できない

このような状況で、
「今回は事実としては確認できません」
とだけ伝えると、
相談者は強い徒労感を抱きます。

重要なのは、
事実が確定しなくても、
職場として調整できることはある
という視点です。

例えば、
伝え方の工夫
役割や関わり方の整理
第三者を交えた対話
こうした対応を検討せずに終わらせると、

相談は“解決しなかった案件”として蓄積されていきます。

やってはいけない対応③
行為者に「注意」だけをして終わる

「一応、本人には注意しました」
これは、人事からよく聞く言葉です。

しかし、その“注意”の中身を聞くと、
何が問題だったのか曖昧
なぜ問題になるのか説明されていない
再発防止の視点がない
というケースが少なくありません。

この対応は、
行為者を防衛的にし
納得感のないまま萎縮させ
本質的な改善につながらない

という結果を招きやすくなります。

その後、
別の部下から似た相談が入る
行為者自身が不満を抱える

といった形で、問題が再燃します。

やってはいけない対応④
「双方に問題がある」と安易にまとめる

グレーゾーンの相談では、
「どちらも悪かったということで」
とまとめたくなる場面があります。

確かに、関係性の問題として見れば、
双方に改善点があるケースもあります。

しかし、ここで注意が必要です。

相談者が
「自分が悪いとも言われた」
と感じる形で終わると、
相談したこと自体を後悔する結果になりかねません。

一方で行為者も、
「結局どこが問題だったのか分からない」
という状態のままになります。

「双方に問題がある」という整理は、
丁寧な説明と具体的な次の行動がなければ、
ただの責任分散に終わってしまいます。

やってはいけない対応⑤
一度きりの対応で終わらせる

相談対応を
「一回話を聞いて、処理して終わり」
にしてしまうと、
その後のフォローが抜け落ちます。

  • 関係性は本当に改善したのか
  • 同じことが起きていないか
  • 当事者が孤立していないか

これらを確認しないまま時間が経つと、
再び相談が入る、あるいは
突然の退職・休職という形で表面化します。

ハラスメント相談は、
“点”ではなく“プロセス”として対応する必要がある
という認識が欠かせません。

【第7章】
相談が“適切に収まっていく職場”の共通点

――望ましい判断と行動の積み重ね
ハラスメント相談が落ち着いていく職場には、
特別な制度や、完璧な管理体制があるわけではありません。

むしろ共通しているのは、
一つ一つの対応は地味だが、判断の軸がぶれていない
という点です。

相談が来るたびに右往左往するのではなく、
「どう考え、どう進めるか」が、ある程度共有されています。

共通点①
「白黒を急がない」姿勢がある

相談が入った直後、
結論を急がない職場は、対応が安定しています。

  • これはハラスメントか
  • 誰が悪いのか

こうした判断を後回しにし、まず行うのは、
何が起きたのか
どう感じたのか
なぜそう感じたのか

を丁寧に整理することです。

このプロセスを踏むことで、
相談者は
「話をきちんと受け止めてもらえた」
と感じやすくなります。

結果として、
感情の高ぶりが落ち着き、
対話の余地が生まれます。

共通点②
「事実」と「影響」を分けて扱っている

相談が収まっていく職場では、
事実確認と同時に、
その言動がどんな影響を与えたか

を丁寧に扱います。
たとえ、
明確なハラスメントとまでは言えない
法的に問題と断定できない
ケースであっても、

  • どう受け止められたのか
  • なぜそう感じさせたのか
  • を無視しません。

これは、
「受け手の感じ方をすべて正しいとする」
ということではありません。

影響を無視しないという姿勢が、
次の改善につながっていきます。

共通点③
行為者を“責める対象”にしない

相談が収束していく職場では、
行為者への関わり方が非常に慎重です。

  • あなたが悪い
  • もう二度とするな

といった一方的な注意ではなく、
どの点が問題になり得るのか
どう伝えれば誤解を減らせるか

を一緒に整理します。

その結果、行為者は
「何がいけなかったのか分からない」
という状態に陥りにくくなります。

防衛的にならず、
行動を見直す余地が生まれるのです。

共通点④
「調整役」としての管理職の役割を理解している

相談が増え続ける職場では、
管理職が
「裁判官役」を背負わされがちです。

一方、相談が収まる職場では、
管理職は調整役として機能しています。

  • 双方の話を整理する
  • 誤解を言語化する
  • 次にどうするかを一緒に考える

この役割を果たすことで、
対立構造が固定化されにくくなります。

共通点⑤
「一度で終わらせない」フォローがある

相談が適切に収束していく職場では、
対応後のフォローが欠かされません。

  • その後、状況はどうか
  • 同じことは起きていないか
  • 働きづらさは残っていないか

こうした確認があることで、
当事者は
「見捨てられていない」
と感じます。

結果として、
小さな違和感の段階で調整が入り、
大きな相談に発展しにくくなります。

相談が減る職場が“特別なこと”をしていない理由

ここまで見てきた対応は、
どれも目新しいものではありません。

しかし、
一貫して行われているかどうか
が、結果を大きく分けます。

  • あるときは丁寧
  • あるときは放置

このばらつきがあると、
職場の信頼は積み上がりません。

逆に、
「この職場は、こう対応する」
という感覚が共有されると、
相談は“爆発”ではなく“調整”になります。

【第8章】
「相談件数」は減らすものではない

――組織として本当に見るべき指標とは
ハラスメント対策を進める中で、
経営層や管理職から、こんな言葉が出てくることがあります。

  • 「相談件数は減っていますか?」
  • 「今年はトラブルは何件ありましたか?」

もちろん、数字を見ること自体が悪いわけではありません。

しかし、ここに大きな落とし穴があります。
それは、
相談件数を“成果指標”として扱ってしまうことです。

「相談が少ない=良い職場」とは限らない

一見すると、
相談件数が少ない職場は
「問題が起きていない」「うまく回っている」
ように見えます。

しかし現場を丁寧に見ていくと、
次のような状態が隠れていることがあります。

  • 相談しても無駄だと思われている
  • 評価や人間関係への影響を恐れている
  • 「波風を立てる人」と見られたくない

つまり、相談が“抑制されている”状態です。

この状態では、
小さな違和感が蓄積され
ある日突然、大きな問題として表面化する
というリスクを抱えています。

相談件数が一時的に増えるのは、むしろ自然なこと

相談窓口の整備や研修を実施した直後、
「相談が増えた」と感じる企業は少なくありません。

ここで慌ててしまい、
「対策が逆効果だったのでは」
と不安になるケースもあります。

しかし、これは多くの場合、
職場が“変わり始めたサインです。

  • 今まで言えなかったことが言えるようになった
  • 小さな違和感の段階で声が上がるようになった

こうした変化は、
中長期的に見れば、
大きなトラブルの予防につながります。

本当に見るべきは「件数」ではなく「質」

では、組織として何を指標にすればよいのでしょうか。

相談対応がうまくいっている職場では、
次のような点が注目されています。

  • 相談が初期段階で上がってきているか
  • 同じ内容の相談が繰り返されていないか
  • 対応後、当事者が孤立していないか
  • 退職・休職につながっていないか

これらは、
単純な件数では測れない指標です。

しかし、
職場の健全性を測る上では、はるかに重要です。

「ゼロ」を目指すことの危うさ

「ハラスメントゼロ」を掲げる企業も増えています。
理念として掲げること自体は、決して悪いことではありません。

ただし、現場レベルで
「相談ゼロ」「問題ゼロ」
を強く求めすぎると、
逆効果になることがあります。

  • 相談しづらくなる
  • 問題が隠れる
  • 数字を守ることが目的化する

結果として、
組織は“静かだが不安定”な状態に陥ります。

重要なのは、
問題が起きないことより、
起きたときにどう扱えるかです。

指標は「管理」ではなく「学習」のために使う

相談対応が成熟している企業では、
相談件数や内容を
「評価」や「管理」のためではなく、
学習の材料として扱っています。

  • どんな場面で迷いが生じているのか
  • どの部署に負荷が集中しているのか
  • 管理職がどこで判断に詰まっているのか

こうした情報を蓄積し、
研修や制度設計に反映させていきます。

その結果、
同じ相談が繰り返されにくくなり、
自然と“質の高い相談”へと変化していきます。

相談件数をどう説明するかは、組織の姿勢を映す

最後に、
経営層や社外に対して
相談件数をどう説明しているかを
一度振り返ってみてください。

  • 「増えたから問題だ」なのか
  • 「声が上がるようになった結果だ」なのか。

この説明の仕方一つで、
現場の受け止め方は大きく変わります。

第9章
研修・制度・日常対応をどう設計すればよいのか

――中小〜中堅企業の現実解
ここまで読み進めてくださった方の中には、
こう感じている方もいるかもしれません。

「考え方は分かった。でも、現場でどう形にすればいいのかが難しい」

これは、とても自然な感覚です。

特に中小〜中堅企業では、
人事の専任担当がいない
管理職が現場プレイヤーを兼ねている
制度を細かく作り込む余裕がない

といった制約があります。

だからこそ重要なのは、
“理想形”を目指すことではなく、
自社の規模・文化に合った設計をすることです。

研修は「知識付与」で終わらせない

多くの企業で実施されているハラスメント研修は、
定義
具体例
法的リスク

といった知識提供が中心になりがちです。
もちろん、これは必要な土台です。

しかし、現場で本当に求められているのは、
「判断に迷ったとき、どう考えればいいか」
という視点です。

相談が減らない職場では、
研修と現場判断がつながっていません。

一方、相談が落ち着いていく職場では、
研修の中で次のような問いが扱われています。

  • この場面で、あなたならどう対応するか
  • 白黒つかないとき、何を優先するか
  • 人事に相談する前に、何ができるか

研修を
「正解を教える場」ではなく、
考え方を共有する場として設計することで、
現場の判断が揃いやすくなります。

制度は「守るため」だけにつくらない

相談窓口や規程は、
「何かあったときのため」に整備されることが多いものです。

しかし、
制度があること自体が
安心感につながっていない職場も少なくありません。

その原因の多くは、
制度が
使い方を知られていない
使った後のイメージが持てない

という状態にあることです。

相談が機能している職場では、
制度について次のような説明がされています。

  • どんなときに使えばよいのか
  • 相談したら、どんな流れになるのか
  • 不利益が生じないよう、どう配慮されるのか

これらが言語化されているだけで、
相談は“最後の手段”ではなく、
調整のための選択肢になります。

日常対応こそが、最大のハラスメント対策

制度や研修以上に、
相談の増減に影響を与えているのが、
日常の関わり方です。

  • 管理職が、普段どんな声かけをしているか
  • 困ったとき、誰に相談してよい雰囲気か
  • 小さな違和感が放置されていないか

これらの積み重ねが、
相談が“爆発”するか、“調整”で収まるかを分けます。

相談が落ち着いている職場では、
管理職が次のような関わりを意識しています。

  • 指摘するときは、理由と期待をセットで伝える
  • 反応が薄い部下には、確認の一言を添える
  • ミスの背景を一緒に整理する

どれも特別なスキルではありません。
しかし、一貫して行われているかどうかが重要です。

「人事が何とかする」構造から抜け出す

相談が増え続ける職場では、
人事が“何でも屋”になっていることが多くあります。

  • 判断はすべて人事任せ
  • 管理職は関与を避ける
  • 現場と人事が分断される

この構造では、
相談は減りません。

一方、相談が落ち着いている職場では、
人事は
現場を支える役割として機能しています。

  • 管理職が考えるための視点を提供する
  • 判断に迷ったときの壁打ち相手になる
  • 事例を蓄積し、研修に反映する

この関係性ができると、
現場の対応力が少しずつ底上げされていきます。

中小〜中堅企業だからこそできること
規模が小さいからこそ、

  • 顔が見える
  • 方針を共有しやすい
  • 修正が早い

という強みがあります。
すべてを完璧に整える必要はありません。

まずは、
判断の軸を言語化する
迷ったときに相談できる関係をつくる

この二つから始めるだけでも、
相談の質は大きく変わります。

【第10章】
ハラスメント対応は「職場文化」の問題である

――今日から管理職・人事ができる一歩

ここまで読み進めていただき、
「ハラスメント相談が増える・減る」という違いが、
特定の個人や一部の出来事ではなく、
職場全体のあり方に深く関係していることが
見えてきたのではないでしょうか。

ハラスメント対応は、
単なるトラブル処理ではありません。

それは、
その職場がどんな価値観で人と向き合っているか
を映し出すものです。

ハラスメントは「誰かの問題」ではなく「構造の問題」

相談現場でよく聞く言葉があります。
「あの人は昔からそういうタイプで」
「あの部署は雰囲気がきつくて」

確かに、個人の傾向や部署の特色が
影響することもあります。

しかし、
相談が繰り返される職場では、
必ずと言っていいほど
構造的な共通点が存在します。

  • 判断基準が共有されていない
  • 迷ったときに立ち戻る軸がない
  • 対応が属人化している

この状態では、
誰が関わっても同じような混乱が起きます。

だからこそ、
ハラスメント対応は
「問題を起こした人をどうするか」ではなく、
職場として何を大切にするかを問い直す作業
なのです。

「正しさ」よりも「納得感」を積み重ねる

本記事を通じて繰り返しお伝えしてきたのは、
白黒を急がない姿勢の重要性です。

法律的にどうか。
規程に照らしてどうか。

これらは、もちろん欠かせません。

しかし現場で本当に影響を持つのは、
「この対応は納得できる」と感じられるかどうかです。

  • 話をきちんと聞いてもらえた
  • 一方的に決めつけられなかった
  • 次にどうすればいいかが見えた

こうした納得感の積み重ねが、
「また何かあったら相談しよう」
「ここで働き続けられる」
という信頼につながっていきます。

管理職に求められている役割は変わっている

多くの管理職が、
今、強い戸惑いを感じています。

  • 厳しく言えばハラスメント
  • 言わなければマネジメント放棄

この板挟みは、決して個人の能力不足ではありません。
役割そのものが変化しているのです。

これからの管理職に求められるのは、
「指示する人」「評価する人」だけではなく、
調整する人としての役割です。

  • 認識のズレを言語化する
  • 感情と事実を切り分ける
  • 次の行動につなげる

完璧である必要はありません。

迷いながらでも、
この役割を引き受けようとする姿勢が、
職場の空気を変えていきます。

人事・コンプライアンス担当者にできること

人事やコンプライアンス担当者は、
現場の「最後の砦」になりがちです。

しかし、本当に重要なのは、
現場が一人で抱え込まない仕組みをつくることです。

  • 判断の軸を言語化する
  • 迷いやすいポイントを共有する
  • 事例を溜め、研修に還元する

人事がすべてを処理するのではなく、
現場と一緒に考える存在になることで、
相談は“問題処理”から“組織学習”へと変わっていきます。

今日からできる「小さな一歩」

最後に、
明日からできる具体的な一歩をお伝えします。

それは、
「判断に迷った事例」を、なかったことにしない
ということです。

  • どう対応したか
  • 何に迷ったか
  • 次はどうしたいか

これを、
管理職同士、人事と現場の間で
共有してみてください。

それだけで、
「自分だけが悩んでいるわけではない」
という安心感が生まれます。

ハラスメント相談が減る職場とは、
問題が起きない職場ではありません。

問題を、対話と学習に変えられる職場です。

その第一歩は、
すでに皆さんの足元にあります。

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