
「叱らない風潮」が生む危うさ――“叱る”ことは、相手を思う関わり
こんにちは。
さくら人材コンサルティング株式会社の伊藤明美です。
最近、新入社員研修や管理職研修の現場で、
感じることがあります。
それは、
「遅刻や報連相の欠如に対して、誰も叱らなくなった」
ということです。
叱られた経験が少ない若手社員。
そして、「叱ることが怖い」と感じる上司や人事担当者。
この“叱らない風潮”は、やさしさのように見えて、
実は相手の成長や職場の信頼関係を損ねてしまうことがあります。
今日は、「叱ることの本当の意味」について、
少し穏やかに考えてみたいと思います。
1. なぜ“叱らない”職場が増えているのか
1-1. 「辞められたら困る」という気持ち
人事の方からよくこんな言葉を聞きます。
「せっかく採用したのに、厳しく言って辞められたら困るんです」
採用が難しい今の時代、一人の離職が大きな痛手になるのは事実です。
だからこそ、「叱ること=相手を追い詰めること」
と感じ、つい言葉を飲み込んでしまう。
その気持ちはとてもよく分かります。
けれども、“伝えない優しさ”は、
時に“放っておく冷たさ”にもなってしまいます。
1-2. 「炎上」への不安も影響している
SNSなどで「上司に怒られた」「理不尽な指導を受けた」
という投稿が拡散される時代です。
そのため、「どこまで言っていいのか分からない」「叱るのが怖い」
と感じる管理職も少なくありません。
「怒鳴るのはダメ。でも、何も言わないのも違う」
そんな葛藤を抱える方が、実際にたくさんいらっしゃいます。
2. 叱られた経験が少ない若手世代
学校教育でも「個性の尊重」や「自己肯定感の育成」が重視され、
他者から強く注意される経験が少ないまま
社会に出てくる方が増えています。
そのため、叱られると「自分が否定された」と
感じてしまう人も少なくありません。
けれども、それは“打たれ弱い”のではなく、
ただ「叱られた経験がない」だけ。
つまり、叱られたあとにどう受け止め、
どう立て直すかをまだ学んでいないのです。
叱る側が「なぜ伝えるのか」「どう伝えるのか」を
丁寧に言葉にできれば、受け手の心は驚くほど柔らかく開いていきます。
3. 「叱る」と「怒る」は、まったく違う
| 叱る | 怒る | |
| 目的 | 相手の成長を願う | 自分の感情をぶつける |
| 焦点 | 行動に向ける | 人格に向ける |
| 結果 | 気づき・改善につながる | 恐怖や萎縮を生む |
叱ることは、相手を思う“愛情表現の一つ”です。
相手に期待しているからこそ、伝える。
未来に成長してほしいからこそ、向き合う。
“叱る”とは、関わる覚悟なのです。
4. 叱られないことで失われるもの
4-1. ミスが改善されない
指摘されないと、同じことを繰り返してしまいます。
「誰も何も言わない=問題ではない」と誤解され、
組織の基準が下がることもあります。
4-2. 「放っておかれている」と感じる
若手の離職理由には、
「自分に関心を持ってもらえなかった」
「成長を期待されていないと感じた」
という声が少なくありません。
叱られないことは、時に
「自分はどうでもいい存在なのかもしれない」
と感じさせてしまうのです。
4-3. チームの信頼が薄れる
ルールを守らなくても注意されない環境では、
まじめに努力する人が損をします。
それが積み重なると、チーム全体の空気が緩み、
信頼が崩れていきます。
5. “叱る”と“心理的安全性”は両立できる
心理的安全性とは、「安心して意見を言える状態」を指します。
ここで大切なのは、「叱らない職場=心理的に安全な職場」
ではないということです。
心理的に安全な職場では、率直なフィードバックが
自然に行われています。
安心感があるからこそ、叱られても「自分を思って言ってくれた」と
受け止められるのです。
叱ることを恐れずに、
信頼関係の上に“対話としての叱り”を積み重ねること。
それが、心理的安全性を高める第一歩です。
6. ハラスメントにならない「伝え方」のポイント
① 感情よりも“事実”を伝える
「どうしてこんなこともできないの!」ではなく、
「この報告が締め切りを過ぎていたね」と、落ち着いて具体的に伝えます。
② タイミングを見極める
感情が高ぶっているときは一度間を置きましょう。
冷静に話せる時間を選ぶことが大切です。
③ 目的を共有する
「責めたいわけではなく、成長してほしいから伝えている」
この一言があるだけで、相手の受け止め方は大きく変わります。
④ 人格ではなく行動を指摘する
「あなたはだめだ」ではなく、
「今回の準備が少し足りなかったね」と伝えましょう。
⑤ 最後は“期待”で締めくくる
「あなたなら次は大丈夫」「この経験がきっと活きると思うよ」
信頼のメッセージで終えることが、前向きな関係を育みます。
7. “叱る”は、愛情と信頼の証
アドラー心理学では、叱ることを「勇気づけの一形態」とも考えます。
本気で向き合うことは、相手を信じているからこそできること。
何も言わないことは、時に“無関心”という最も冷たい態度になります。
本当の優しさとは、相手の成長を願って言葉をかけること。
「叱る」は、信頼があるからこそ成立する関係性なのです。
8. チームで“叱る文化”を育てる
職場で「叱り方」が人によって違うと、受け手は混乱します。
ですから、組織として「伝え方のルール」を共有することも大切です。
例えば――
- 指導の目的と基準を明文化する
- フィードバックのスキル研修を実施する
- 上司同士で“伝え方”を振り返るミーティングを設ける
こうした仕組みづくりが、安心して叱り合える文化を支えます。
9. まとめ:叱ることは「相手を信じること」
叱ることは、相手を責めることではありません。
「あなたならきっとできる」「成長を見届けたい」
――その思いの表現です。
そして、叱る側も叱られる側も、
互いに信頼し合える関係性を築くこと。
それこそが、心理的に安全で、
前向きに成長できる職場の姿だと思います。
“叱る勇気”がある職場には、“成長する力”が宿ります。
どう伝えるかに悩んだときは、
相手の未来を思い浮かべてみてください。
その気持ちが、きっと正しい言葉を導いてくれるはずです。
さくら人材コンサルティング株式会社では、
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