
取引先へのセクハラ、会社はどう対応する? 企業間の協力と初動の実務
「自社の社員が取引先の社員にセクシュアルハラスメントをしたとして、相手企業から連絡が来た」。そのようなとき、会社は何から始めればよいのでしょうか。営業担当者の個人的な問題として扱うのか、相手企業の調査を待つのか、経営者や人事担当者が迷う場面です。しかし、会社同士の関係を理由に対応を後回しにすると、相談した人の不安も、現場の混乱も大きくなりかねません。
今回のテーマには、他社の社員へのセクシュアルハラスメントが相手企業からの指摘で大きな問題になったという出来事と、かつて取引先との食事会で望まない身体接触を受け、上司に相談しても「取引先だから、うまくやって」と返された経験があります。つらさを伝えたのに、仕事上の関係を優先された。その受け止められなさは、相談のしにくさにもつながります。
「昔はよくあった」「悪気はなかった」という説明だけでは、現在の職場の対応を決められません。必要なのは、その人が何に困っていて、会社がどのように安全を確保し、事実を確認するかを考えることです。性別や役職にかかわらず、誰もが相談でき、当事者双方の説明を丁寧に扱う仕組みを整えておきましょう。
本稿では、取引先との間で起きたセクハラへの企業の関わり方を、制度の基本、相談の初動、企業間の協力、事実確認、再発防止の五つに分けて説明します。まず実行したいのは、相手企業から連絡が来たときの社内責任者と連絡窓口を決めることです。制度の説明はご提示のテーマをもとにした一般的な整理であり、法改正や行政資料の最新の内容、個別事案への適用は、弁護士や社会保険労務士などに確認してください。
1.取引先へのセクハラでも、会社の対応が必要になる
職場のセクシュアルハラスメントは、同じ会社の社員同士に限って起こるものではありません。取引先、顧客、訪問先などとの業務上の関係でも問題となり得るため、雇用する会社が違うことだけを理由に対応の対象から外さないことが大切です。

2020年の対策強化と、企業間の協力の考え方
2020年6月には、いわゆるパワハラ防止法に基づく措置の施行と同じ時期に、男女雇用機会均等法に基づくセクシュアルハラスメント防止対策も強化されました。パワハラの措置義務については企業規模による施行時期の違いがあるため、すべての企業に同時に同じ制度が始まったという説明は避けましょう。セクハラへの対応は、それ自体の制度として理解する必要があります。
今回押さえたいのは、被害を受けた労働者を雇用する会社が対応を行う際、行為者とされる人を雇用する別の会社に、事実確認などのための協力を求める場合があることです。その協力を求められた会社には、必要な協力に応じるよう努める義務があります。相手企業の社員に関することだからと、連絡を受けた会社が一切関わらなくてよいという整理にはなりません。
ここでいう協力の努力義務は、相手企業の説明をそのまま事実と認めることや、求められた情報を無条件ですべて渡すことを意味しません。協力の目的、必要な確認事項、個人情報の取扱いを整理し、自社として可能な対応を検討することが実務の出発点です。防止措置に関する義務、企業間の協力、個別の法的責任は、それぞれ分けて考えましょう。
会社の外や食事会でも、業務との関係を確認する
たとえば、納品後の懇親会で、自社の営業担当者が取引先の担当者に性的な発言を繰り返したとします。後日、相手企業の人事から確認依頼が届いたとき、「営業時間外の飲食店での出来事だから」と判断を終えるのは早計です。参加の経緯、業務との関連、参加者の立場、会の実態などを確認する必要があります。
懇親会が職場に含まれるかどうかは、名称や場所だけで一律には決まりません。オンライン会議後のメッセージや、出張中の移動、取引の連絡に使うチャットも、状況を確認する対象になり得ます。飲酒していたこと、相手が笑っていたこと、過去に同様のやり取りがあったことだけで、今回の言動を問題のないものとして扱わないようにします。
また、被害を申し出た人がその場で明確に拒否できなかったとしても、それだけで受け入れていたと決めつけられません。相手が重要な取引先であるほど、関係が悪くなることを心配して言葉が出ない場合があります。性別や年齢、役職によって「これくらいは平気なはず」と考えない姿勢も、管理職に共有しておきたい点です。
最初の言葉で、会社としての姿勢を示す
相手企業への初回の返答は、「ご連絡の内容を重く受け止めています。社内の担当者を定め、必要な確認と協力の方法を相談させてください」といった表現が考えられます。まだ確認していない内容を認める必要はありませんが、窓口と次の連絡予定を伝えることで、連絡が放置される不安を減らせます。
社内では、受信した日時、連絡元、申出の概要、依頼された事項、回答予定、担当者を記録します。営業部門の責任者だけで抱え込まず、人事や相談窓口につなぐ基準も確認してください。取引への影響を検討すること自体は必要でも、売上や担当者の実績によって相談を受け付けるかどうかを変えないことが、対応の土台になります。
2.被害の相談を受けたら、安全と本人の意向を確かめる
取引先の社員から不快な言動を受けたという相談では、相談者が今後の仕事や周囲の反応を心配していることがあります。まず安心して話せる場を設け、事実確認と並行して、接触や業務上の負担を減らす方法を考えましょう。

聞き始めに、困りごとと直近の予定を確認する
たとえば、若手社員が「先週の会食で取引先の人から身体に触れられました。明日も一人で訪問する予定です」と上司に伝えた場面を考えます。このとき、最初に会食への参加理由や服装を問い詰めると、本人は自分に落ち度があると言われたように感じるかもしれません。必要な確認には順序があり、まず差し迫った困りごとを聞くことが重要です。
伝え方の例は、「話してくれてありがとうございます。今、いちばん心配なことは何ですか。明日の訪問についても、一人で対応しなくてよい方法を一緒に考えましょう」です。「取引先だから我慢して」「担当を外れると評価に響く」といった言葉は避け、相談によって不利益を受けないようにする会社の方針を具体的に伝えます。
確認したいのは、相手との接触予定、直接の連絡が続いているか、仕事や体調への影響、本人が望む連絡方法などです。詳しい経緯を一度にすべて説明してもらう必要はありません。休憩を取る、書面で補足する、話す担当者を選べるようにするといった工夫も考えられます。心身の不調がある場合は、本人の希望を確認して適切な相談先につなぎます。
秘密の扱いを説明し、共有範囲を相談する
相談者から「誰にも言わないでください」と言われた場合、担当者が絶対の秘密を約束すると、その後の安全確保や調査が難しくなることがあります。「お話は必要な担当者に限って扱います。対応に必要な共有について、誰に、何を伝えるかをできるだけ事前に相談します」と説明し、本人が心配していることを確かめましょう。
相手企業への連絡を望むか、氏名を伝えることへの不安があるか、まず社内の調整だけを希望するかによって、取り得る手順は変わります。ただし、本人の希望だけで全体の対応を決められない場合もあります。安全上の懸念や他の社員への影響から会社として確認が必要なら、その理由と予定する範囲を説明し、意向を尊重しながら進めることが大切です。
記録は、本人が話した内容と、聞き手の推測を分けて残します。「会食後、店の出口で腕をつかまれたと話した」という申告と、「相手は酔っていたのだろう」という担当者の解釈を混在させないようにします。日時、場所、具体的な発言や行動、同席者、保存できる連絡履歴、本人の希望を整理し、不明な点は不明のまま記載してください。
相談者だけが負担を引き受ける調整にしない
明日の訪問への対応としては、複数名での訪問、オンラインへの変更、相手企業への窓口変更の相談などが考えられます。本人が望む担当変更も選択肢ですが、説明もなく仕事から外すと、相談したことで機会を失ったと感じることがあります。対応の目的、期間、評価への扱い、見直しの時期を説明し、本人と確認しましょう。
当面の調整は、行為の有無が最終的に確定する前でも、安全確保のために検討できます。その際は、関係者を処分したと受け取られるような説明を避け、確認中の措置として整理します。周囲への説明も業務上必要な範囲にとどめ、噂や詮索が広がらないよう管理職が注意を促します。
面談の終わりには、「今日はここまで伺いました。次は人事担当者が確認し、金曜日までに進み具合をご連絡します」と見通しを示します。連絡が途切れると、本人は放置されたと感じやすくなります。追加の出来事を伝える窓口と、対応後に状況を確認する日を決め、必要があれば社内窓口や外部の専門家へ相談できるよう案内しておきましょう。
3.相手企業から協力を求められた会社が進めること
自社の社員について申出を受けた会社は、相手企業の困りごとを受け止めつつ、確認の目的と手順を整理する必要があります。営業担当者同士のやり取りに任せず、会社として窓口、確認担当者、情報の扱いを決めましょう。

依頼を受け付け、協力事項を具体化する
たとえば、相手企業から「御社の社員との会食について相談がありました。参加者と当日の状況を確認したい」と連絡が届いたとします。受け取った管理職が、そのまま関係者全員にメールを転送すると、相談者の情報が必要以上に広がるおそれがあります。まず正式な担当窓口に共有し、依頼された項目と目的を確認します。
確認事項は、対象の日時や場所、申出の概要、相手企業が把握している情報、協力を求める内容、希望する回答時期です。依頼内容が曖昧なときは、「確認を進めるため、対象となる会食と、ご回答が必要な事項を整理していただけますか」と伝えます。情報不足を理由に止めるのではなく、何が分かれば対応できるかを示す姿勢が役立ちます。
相手企業との調整では、「当社の窓口は人事部の担当者です。参加状況と関係資料の有無を確認し、まず来週火曜日までに進捗をご連絡します」と、担当と期限を具体的に伝えます。すぐに最終回答が出せなくても、受領と着手の連絡は分けて行えます。期限を守れない見込みが立った場合も、その前に理由と次の見通しを共有しましょう。
自社でできる確認と、共有の範囲を切り分ける
協力の内容としては、当日の参加者の確認、自社社員への聞き取り、業務上の連絡履歴の確認、相手企業との面談日程の調整などが考えられます。何を実施するかは事案によって異なります。自社の従業員に関する情報でも、目的や必要性を考えずに外部へ渡してよいわけではありません。共有先と共有方法を含め、適切な取扱いを検討します。
たとえば、関係のない人事評価、家族の事情、健康情報をまとめて求められた場合は、今回の確認との関係を確かめます。「調査の目的に必要な範囲で協力したいと考えています。この情報が必要な理由と、取扱担当者を確認させてください」と伝え、要点をまとめた回答などの方法も相談します。判断が難しい個人情報は専門家に確認してください。
逆に、個人情報という言葉だけで、確認や協力を全面的に拒むことも避けたい対応です。原資料を渡せない場合に、事実関係を整理して回答できるか、本人への聞き取り結果のうち必要な部分を共有できるかなどを検討します。実施できること、条件の調整が必要なこと、実施が難しいことを分け、理由と代替案を記録します。
取引上の力関係を、調査に持ち込まない
自社が大口の発注元であれば、「この件を続けると今後の取引にも影響する」と受け取られる発言に注意が必要です。反対に、自社が受注側であっても、取引維持を優先して、事情を確認しないまま自社社員に謝罪や退職を迫る対応は適切ではありません。取引条件の交渉と、ハラスメントに関する確認の窓口を分ける工夫が考えられます。
社内の関係者には、「会社として事実を確認します。相手の方への直接連絡や、周囲への説明の依頼は控え、情報は担当窓口に集めてください」と伝えます。確認前の口裏合わせや、相談を取り下げてもらうための働きかけを防ぐためです。取引先との日常連絡を続ける必要がある場合は、業務連絡の担当と内容を整理します。
企業間のやり取りは、依頼文、回答、実施した確認、未回答の項目、次回連絡日を一つの管理記録にまとめます。双方の会社で調査の進み方が異なることもあるため、どちらが誰に聞くかも調整してください。相談者に同じ説明を何度も求める負担を減らしながら、自社として確認すべき事項を省略しないことが大切です。
4.事実確認は、双方の説明と記録を丁寧に扱う
セクハラの申出があったときは、相談者を支えることと、公正に事実を確認することを並行して進めます。初めからどちらかの説明だけで結論を決めず、確認できたこと、説明が分かれること、今は分からないことを整理しましょう。

関係者は原則として別々に、具体的に聞く
たとえば、会食中の身体接触について、相談者は「断った後も続いた」と話し、行為者とされる社員は「親しみを示しただけ」と説明しているとします。この二つは、出来事の説明と本人の意図が混ざっています。いつ、どこで、どのような行動があり、その前後に何が話されたのかを、別々の面談で確認する必要があります。
聞き方の例は、「その場で起きたことを、覚えている順に教えてください」「その発言の前後には、どのようなやり取りがありましたか」です。最初から「嫌がっていたのに触ったのですね」と結論を含む質問を重ねると、説明を誘導するおそれがあります。相談者にも行為者とされる人にも、分からないことは分からないと答えられるように伝えます。
行為者とされる人が「そんなつもりではなかった」と説明した場合は、その意図を記録したうえで、具体的な言動の確認に戻ります。「意図については伺いました。何をしたかと、そのときの状況も確認させてください」という伝え方が考えられます。意図だけで問題の有無を決めず、相手の反応、業務との関係、言動の内容などを整理します。
証拠の有無だけで、聞き取りを打ち切らない
確認する資料には、会食の案内、参加者一覧、日程表、関連するメールやチャットなどがあります。保存する際は、作成日時、入手元、対象の期間を記録し、元の内容を変えずに保管します。個人の端末や私的なやり取りの確認には別の配慮が必要になるため、調査の必要性と方法を社内規程や専門家に照らして検討してください。
録音や目撃者がいないからといって、相談そのものを受け付けない扱いにはしません。他方で、申出があったという理由だけで、すべてを確認済みと記録することも避けます。時間の経過や記憶の違いを踏まえ、資料と各人の説明が一致する部分、食い違う部分、追加確認が必要な部分を分けると、判断の過程を説明しやすくなります。
面談記録には、実施日、担当者、同席者、質問と回答の要点、資料、追加確認事項を残します。重要な言葉は、要約によって意味が変わっていないか本人に確認する方法もあります。閲覧権限と保管先を決め、営業部門の共有フォルダなど、広い範囲の人が見られる場所へ不用意に保存しないことも必要です。
対応の判断と、本人への説明を分けて設計する
事実確認後は、就業規則や社内方針に照らし、注意指導、業務上の調整、研修、懲戒を含む措置などの必要性を検討します。処分の有無や程度は、確認できた事実、規程、手続などによるため、その場の雰囲気や取引先の要望だけで決めないようにします。判断が難しい場合は弁護士や社会保険労務士と相談し、判断の理由も記録しましょう。
相談者への説明では、「お話しいただいた内容をもとに確認し、会社として接触方法の見直しと必要な対応を進めます」と、伝えられる範囲で結果と今後の見通しを示します。他の社員の処分内容など、詳しく伝えられない情報もあるため、理由なく「何も話せません」で終えず、安全確保や連絡窓口について説明します。相手企業への共有範囲も別途整理します。
確認が十分にできなかった事項が残る場合も、担当者を決めたまま放置しないことが大切です。追加情報の受付方法、当面の接触ルール、見直しの時期を示してください。双方を同席させた話し合いや謝罪の場を、本人の意向を確かめずに設定するのは避けます。和解したように見せることより、その後に安心して働ける状態を確かめることが重要です。
5.「取引先だから仕方ない」を変える再発防止
一つの案件が落ち着いても、相談しにくい慣行や曖昧な役割分担が残れば、同じような困りごとが繰り返されます。研修、相談窓口、会食や訪問の運用をつなげて見直し、管理職が実際に使える対応方法にしていきましょう。

管理職が使う言葉を、具体例で練習する
たとえば、長年の取引先との懇親会で、部下への性的な冗談が続いているのに、上司も笑って流している職場があるとします。問題が起きた後に「嫌なら言ってほしかった」と説明しても、部下には言い出しにくい状況だった可能性があります。管理職には、困っている人からの申告を待つだけでなく、その場の言動を止める役割もあります。
会食での言い方は、「その話題はここで切り替えましょう」「身体に触れることは控えてください。業務の話に戻します」など、短く具体的な表現が考えられます。その場で詳しい調査を始める必要はありません。まず行動を止め、必要なら席を離れる方法を確保し、会の後に本人の意向を個別に確認する流れを練習しておきます。
相談を受ける練習では、「取引先との関係は会社として考えます。あなたが一人で我慢して解決する必要はありません。安全に仕事を続ける方法を相談しましょう」という表現が役立ちます。ただし、会社が必ず希望どおりの結果を約束できるわけではありません。できることと確認が必要なことを説明し、約束した連絡を守ることまで研修に含めましょう。
会食・訪問・相談のルールを、現場で使える形にする
社内方針には、自社の社員同士だけでなく、取引先や顧客との業務上の関係でも不適切な性的言動を認めないことを示します。性別を限定した例ばかりにせず、同性間やさまざまな立場で起こり得ることも共有してください。「相手が嫌だと言ったらやめる」という説明だけでは、拒否しにくい関係を十分に扱えない点にも注意が必要です。
運用では、会食の参加を断る相談先、単独訪問が不安な場合の調整方法、緊急連絡先、外部企業からの申出の受付先を決めます。たとえば、会食後に不快なメッセージが届いた場合、誰に連絡し、業務の返信を誰が引き継ぐかまで決めておくと、社員は判断しやすくなります。すべてを本人の対処能力に委ねないことが大切です。
規程や案内を作るときは、相談を受けた上司が記入する簡単な受付記録も準備しましょう。受付日、直近の安全上の懸念、本人の希望、共有した担当者、次回連絡日を残せる形式なら、引継ぎに役立ちます。詳細な内容は限定した記録で管理し、日常の進捗管理表には不要な個人情報を載せないなど、情報量を調整します。
対応後の確認を続け、組織の課題として見直す
対応が終わった後も、相談者に嫌な連絡が来ていないか、担当変更で仕事の負担が増えていないか、周囲から詮索や非難を受けていないかを確認します。行為者とされた社員への指導についても、一度伝えて終わりにせず、業務上の行動が変わっているかを必要な範囲で確認します。経過確認の担当者と時期を、終結時の記録に残しましょう。
会社全体への共有は、個別の当事者が推測されないように工夫します。実際の案件の詳細を研修の題材として広めるより、一般化した事例で初動や声のかけ方を学ぶほうが適切な場合があります。窓口の利用件数だけを減らす目標にせず、連絡までの時間、引継ぎの漏れ、相談後の負担などから運用の改善点を考えてください。
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